ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

して異を唱えることになる。しかし、ポル・ポト派が選挙に参加できなかったとはいえ、それ以外の野党が選挙をボイコットすることもなく、プノンペン政権重視の現実路線でも総選挙にこぎつけることができた。これはなぜなのか、UNTACの対応を検討してみよう。まず、ポル・ポト派以外の野党はカンボジア和平のためにパリ協定に基づいた選挙を行おうという意思と意欲を有していたという点が重要である。プノンペン政権は自由な政治活動を打ち砕こうとして野党の事務所に手榴弾を投げ込んだり、数人の野党の活動家を暗殺したりさえしているが35、UNTACも上述したようなプノンペン政権依存という限界からそういった妨害行為を十分に防ぐことはできていない。当然、野党からは不公平だという不満が高まり、選挙運動からの脱退論も熱を帯びる。しかし、例えばフンシンペック36を率いるラナリット殿下は、「この選挙は勝ち目がないからやめたほうがいい」という声に対しても断固として「自分は選挙にとどまるつもりだ」と述べている37。カンボジア和平のため選挙に参加するという野党の決意と意欲は、UNTACが活動を行う上で大変力強い後押しとなったであろう。しかしいくら野党がそのような意欲的な姿勢をもっていたといっても、UNTACがそうした野党の意欲に応える対応を見せなければ、野党もやがては選挙活動から脱落してしまう公算が高い。そうした危機感からUNTACは、可能な限りの中立性を維持しようと、さまざまな方策を採ることとなった。結果的に、そうした方策が野党を選挙に踏みとどまらせる上で効を奏した。それは即ち、UNTACがプノンペン政権との関係でも中立であるという認識を、野党に対してもかろうじて植え付けることができたということである。具体的に見てみよう。まずUNTACは、選挙前の世論調査を一切禁止している。一般に、世論調査結果によって有権者が投票行動を変化させることがあることはよく知られているが、選挙という民主的手段から長く遠ざかっているカンボジアにあってはその恐れは35835明石、前掲書p.8036独立・中立・平和・協力のカンボジアのための国民統一戦線:FUNCINP.EC37明石、前掲書p.81