ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回最優秀賞を派遣しており、予算規模も当初8億8000万ドルとされた。さらに1992年の国連安全保障理事会でガリ事務総長は総勢22000人もの軍人、警官隊、文民をカンボジアに派遣することを提案している30。そして、UNTACに予算・人員面で不安を一層抱かせたのはUNTAC要員殺害事件やポル・ポト派の妨害などでUNTACの先行きが不安定となり、UNTACを構成する各国が手を引くのではないかと考えられたことである。例えば国連ボランティアの中田厚仁氏と文民警察高田晴行氏の殉職に際しては、もともと日本国内にくすぶっていたPKO撤収論が高まりをみせ31、同じ頃、ブルガリア国会でも撤収論が論議されている32。また、現地のスタッフの間でも、特にボランティアの間では不安と動揺が広がり、治安が悪化すれば士気も低下しかねなかった33。国連主導といえども実質上は各国の参加を前提としていたUNTACにとって、こうした人員・予算面の懸案から、予定通りの選挙実施は至上命令であったのだ。また、カンボジア国民にとっても、ポル・ポト派とプノンペン政権の対抗などの政情不安と国連への強い期待から考えて、現地における高い士気を長期間維持することは困難であったと考えられる34。以上のように、ポル・ポト派の抵抗から現実の軍事力が必要となったことと、UNTAC・カンボジア双方の内部事情から選挙のパリ協定通りの実施が不可欠となったことから、ポル・ポト派に対抗しうる軍事力を有し、また選挙を行うために必須となるカンボジア行政機構を保持しているプノンペン政権との関係を重視するUNTACの現実路線は、強化されたのである。3このように、選挙にいたる過程においてUNTACは現実の行政機構を握るプノンペン政権に対してやむなき妥協を繰り返していた。当然ながら野党はUNTACの中立性に対30 米国議会調査局報告書によると、22000人の内訳は、戦闘員15900名、警官隊3600名、国連職員、国連ボランティア、行政・選挙準備・人権擁護などのための文民を加えた2650名となっている。さらに、ガリ事務総長は、選挙要員として56000名のカンボジア人を雇用するよう提案している。『米国議会調査局報告書』「カンボジアにおける国連の活動と日本のP.KO参加」(C-NET発行1992)p.531池田維『カンボジア和平への道』p.p.181-18732明石、前掲書p.64他33 明石氏は、「UNTAC文民部門は死者や負傷者の発生に極めて脆弱かつ敏感である」と指摘している(『中央公論』94年3月明石康「カンボジア日記」p.172)。UNTAC活動の動揺から生じるP.KO撤退論に対しては、マスメディアの報道の仕方がセンセーショナルであるという指摘も存在する。局地的な軍事衝突に記事が集中し、カンボジア4派のうちの1派の発表を鵜呑みにしたような報道が繰り返されることで、UNTACに対する不当な反対・撤収論が唱えられてしまうという指摘である。明石氏は、P.KO問題に批判的な論旨をとっているメディアにおいて、UNTACに関しても、なにか欠点を見つけ失点を取り上げてやろうという態度があったのではないかとマスメディアへの不信感を表明している(池田維『カンボジア和平への道』pp.261-264)。34明石、前掲書p.36357