ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

大使の見解を文字通り受け取ることはできない18。協定違反と選挙妨害を繰り返すポル・ポト派を取り込んで選挙を行うことは現実的には無理なことであったが、そうはいってもUNTACがポル・ポト派に対しても可能な限りのアプローチを図り、可能な限りの中立性を保とうと努力したことは、カンボジア国民と国際社会にUNTACは中立公正であるという認識を植え付け、UNTACへの信頼を生んだと考えられる。89.56%という高投票率がUNTACへの国民の信頼なしには達成され得ないことは、明らかであるし、日本とタイの忍耐強い対話努力など過程を通じて、歴史的にポル・ポト派を援助してきた中国でさえ、ポル・ポト派の理不尽な対応を十分認識した19。その結果ポル・ポト派は中国の影響下から離脱していった。軍事措置に頼らないこの間のポル・ポト派工作に関して、フランス・アメリカの政策担当者の発言を引用すると、「この(日本・タイによるポル・ポト派説得工作を指す;引用者注)工作が行われていること自体が、クメール・ルージュの暴走を抑え、和平環境の継続に役立った。それはまた国際社会のコンセンサス作りに貢献した」のである20。1-Cプノンペン政権への対応UNTACの各派への対応の中で中立性をめぐって大きな問題となるもうひとつの場面は、プノンペン政権に対する対応である。UNTACは広範な権限を与えられながら、実際には現地のプノンペン政権の軍事力や行政機構を前提とした活動であったから、その意味でプノンペン政権の行政力に頼らざるを得なかった側面がある。この点、行政機構自体を国連が作り出した東チモールの場合とは大きく異なり、軍事部門に関しても、UNTACが持っているのは総兵力1万6000、そのうち歩兵大隊の実数は約1万で、「戦闘能力を持った部隊でもなんでもなかった」21。その意味でUNTACは「現実の均衡の上に立って行動するしか仕方がなかった」22のである。そのような状況では、UNTACがプノンペン政権寄りだという批判が出たのも驚くべきことではなく、事実UNTACはそのような側面を持っていた。以下では、選挙前、選挙後と分けて、UNTACの活動がいかにプノンペン35418今川幸雄『カンボジアと日本』(連合出版2000) p.17819池田維『カンボジア和平への道:証言日本外交試練の5年間』(都市出版1996) p..17120池田維前掲書p.17221『世界』93年10月「カンボジアP.KOの成果」p.16822『世界』93年10月「カンボジアP.KOの成果」p.168