ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
350/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている350ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

とする「平和強制Peace Enforcement」は、同章に強制措置が定められていることから分かるように、紛争の軍事的解決に注意を向けたものといえる。それらに対し、国連の平和維持活動は、国連憲章においては想定されておらず、国連の実行を通じて生まれてきたものである。従って、平和維持活動は、国連憲章上の明確な根拠をもたない。それゆえに、平和維持活動の明確な定義は困難なのであるが、一般に「平和維持活動」は、「憲章第6章半(Chapter Six and a Half)」の活動であるといわれる3。第7章の規定(平和強制)には及ばないが、純粋に外交的な手段や第6章に規定される手段(平和創造)は超えるものだとされるのである4。そして、従来、平和維持活動にいう「平和」とは、戦争や武力紛争が存在しないことを意味する通常の意味での平和とは異なり、武力紛争中の一時的な敵対行為の停止(停戦)を意味するに過ぎない、とされてきた。そのような一時的な「平和」が、平和維持活動が実施されるための大前提なのであって、長期にわたる国連の実行によって、次のような基本原則が形成されてきている。即ち、1受け入れ国の内政への不介入2利害関係国の排除3受け入れ国の同意4自衛以外の武器使用の禁止である。1と2の原則は平和維持活動の「中立・公平的性格」を、3と4の原則は平和維持活動の「非強制的性格」を示していると考えられる。こうした原則は、平和維持活動の実行を積み重ねる中で、活動を成功させるために不可欠な原則として見出されてきたものだと考えることができる。とりわけ、(潜在的に)敵対関係にあるいずれの当事者にも偏しないという介入の中立性原則は、紛争への介入者としてPKO活動が当事者に受け入れられ、また国際社会の監視の中でPKOの正統制を獲得するために要求される重要な原則であるとされる。しかし、1992年から93年にかけて行われた国連カンボジア暫定機構(UNTAC)の活動は、従来の平和維持活動から一歩踏み込んだ活動であった。すなわち、単に停戦を維持・3483西原正セリグ・S・ハリソン『国連P.KOと日米安保』(亜紀書房1995)p.374なお、UNTACが憲章第7章に踏み込んでいないというのはやや曖昧な表現である。なぜなら、P.KOは国連憲章第6章半であるという見解が示すように、実際のP.KO遂行のための国連憲章上の根拠は、学説によって様々であり、見解の一致をみておらず、なかには、憲章第7章にP.KO一般の根拠を見出す見解も存在するからである(香西、前掲書pp.386-420)。UNTACが憲章第7章に踏み込んでいないというのは通常第7章に規定されるような武力行使を伴わないという意味で、明石氏の「UNTACは国連憲章第6章下の活動にできるだけとどめたい」という発言(『世界』1992年11月号、同1993年10月号)も、7章下のような武力行使には踏み込まないということを含意すると考えられる5 平和再建機能をも伴ったP.KOは、1989年ナミビアでの国連ナミビア独立支援グループ(UNTAG)が最初であるとされる。西原、前掲書p.42