ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第21回最優秀賞「国連平和維持活動における中立性再考~UNTACを例として~」前田振一郎要約UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)によってもたらされたカンボジア和平によって、国際的には東南アジア諸国間の平和が達成され、国内的には連立政権が樹立されて市民社会に政治的な意識が芽生え始めた。それによって経済再建も始まったといえよう。必ずしも託された任務を完全に遂行できたわけではないが、選挙を無事に実施して新たな政権に統治を引き継ぐことができたという点で、一般にUNTACの活動は成功であったとされる。その活動を中立性という観点から観察した本稿の主張をまとめると、まず、とりわけポル・ポト派とプノンペン政権への対応を巡る諸場面でUNTACの中立性は揺らいでいるということが指摘される。しかしUNTACは中立を標榜することを放棄することはせず、一貫して中立であるというシグナルを発し続けた。それは例えばポル・ポト派に対して武力強制を思いとどまったという姿勢に現われている。UNTACは紛争当事者に自らが中立であるという認識を植付け、信頼を獲得することで、総選挙にたどり着くことができたのである。ただ、国連の地域紛争への関わりにおいて中立性の標榜が無条件に絶対的な価値を持つわけではない。武装解除が達成できなかったことや現状を追認せざるを得なかったことなど、UNTACが抱えた失敗や限界もまた、中立性を掲げたことでもたらされたものであったのである。このように、中立性を評価する際にはそれを掲げることがもたらす功罪の二面性を忘れてはならない。その上で、カンボジアにおいては、中立性を標榜することが、現実的にもっとも合理的な選択肢であったと考えられる。なぜなら、カンボジアでは、パトロンの諸事情、シアヌークの存在、パリ協定という和平合意の存在345