ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

く問題である。ピカソの代表的な作品のゲルニカは、スペインのバスク地方の小さな町ゲルニカを、ナチスドイツが無差別爆撃して多くの市民を殺傷したことに抗議して描かれたものである。ピカソのように幾世紀にもわたって残るような芸術作品は、その背景とともに語り継がれ怨念は生きつづけてゆく。民族の自決と抗争の原因が貧困と生存権の剥奪による怨念と憎悪がパワーとなって、力のバランスによって惹き起こされることを考えると、その根源を絶つことは大変に難しい問題である。さらに今日のように文明の発達した状況下では、相対的な力関係だけではなくて、紛争は形を変え、国家を越えて民族や宗教というアイデンティティのもとに相手に対してテロ戦争という方法で、譲歩を迫り生存権の平等を勝ちとろうとするように変質してきた。現在行われているアフガニスタンのタリバン掃討作戦やイスラエルのパレスチナ人掃討作戦は世界のムスリムの心に大きな傷あとを残し、将来より強力な抵抗勢力となって対決する時の来ることを危惧せざるを得ない。怨念が憎悪となり、憎悪はパワーとなってテロや戦争へと向かわせる。この輪廻を絶ち切らねばならない。人は人を殺すから神に祈るのだろうか。宗教は人を殺せとは教えない。人が神の教えに背き、怨念を絶ち切れないものならば、争いの出来ない仕組みを考えなければならない。六、国民国家統合へ国家が安定しているのは、単一民族国家の場合と、複数のものが住み分けているもの、中国のように主要民族の下で混在しているもの、アメリカ・インディアンやアイヌのように国家のなかに埋没しているものまで民族の持つ相対的な力と、経済環境によって様々な形態がある。不安定なものとしては、ユーゴのようにそれぞれが独立国を作ったにも拘らず、尚隣国の動きを窺っているものや、インドネシアにおける東ティモールやそのほかの334