ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

報復についての報道に事欠かない。2000年9月29日から2002年6月3日の間に、イスラエルの軍隊および入植者に殺されたパレスチナ人は2258人。一方、イスラエルの自爆テロなどでインティファーダ以来殺害されたイスラエル人は800人以上に及び、国連中東特別全権代表は今月の14日にガザにおける自爆テロを非難した。そのような暴力の応酬を絶つためにイスラエルが出した解決策が、西岸地区に建設中の分離壁である、しかし、それはさらなる暴力をうむ可能性を含んでおり、当然、問題の根本的な解決にはならない。国連はパレスチナ問題発生当初より、これに取り組んでいる。現在でも国連は、UNRWAを通じてパレスチナ人を経済的、社会的に支援しているが、問題の政治的解決の話になると、国連のプレゼンスは低く、アメリカが主導的役割を担っている。その理由には、紛争当事者の期待、信頼の欠如、構造的問題が挙げられる。国連はこのまま人道支援と経済中心の普通の国際機関化の道をたどるべきではない。それは、パレスチナ問題にとって、さらに言うなら世界にとっておおきな損失となるからだ。国連はソフト・パワーを有する。ソフト・パワーとは自国が望むものを他国も望むようにする力のことである。そのパワーは国連の幅広い分野で積み上げてきた実績とその人権の擁護、尊重といったイデオロギーによるものであった。国連の人権の擁護、尊重といったイデオロギーは「現代のカトリック」、そして、国連官僚機構は「正しい協会」となりうるのである。冷戦が終わっても安保理が機能しないこともある。それはパレスチナ問題に顕著である。2003年10月15日、アメリカが拒否権を発動させ、分離壁の建設中止を求めるシリアらの安保理決議案を否決にした事件は、そのことをよく表している。国連はこのような事態に各国になにかを強制しようとするのではなく、そのソフト・パワーを使って国際社会の規範の生成に取り組むべきである。上に述べた分離壁について考えると、人権を無視している壁の建設や、今回の安保理で見られたようにイスラエルを擁護する態度などを適切でないとする規範が国際社会の市民、政府当局者に浸透するように国連は努めるべきだ。そういった規範はないわけではないが、まだ不十分である。事務総長報告はその規範生成に310