ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第20回最優秀賞せることで、紛争に関わってきた。すでに紛争が欧米諸国対アラブ諸国という様相を呈したパレスチナ問題において、国連が関わらないことはひとつの適正な関わり方に思える。なぜなら現実に欧米諸国の論理の影響が強いと考えられている国連をアラブ諸国が敵視することは、これまでの国際政治の歴史から鑑みて、やむをえないことであり、国連が深く介入することでますます紛争がこじれることが予想されるからである。他方、国連が関わるべき問題について、国連は紛争にどう関わるべきか、どの時点で関わるべきか、という問題がある。主権国家が国連による介入を主権の侵害ととらえる負の側面と、人道的な問題には関わらなければならない国連の道義的側面とのバランスの問題があるからである12。たとえばコソヴォで非人道的な行為がなされているのを認識していながら、国連の決議を待っていては遅過ぎるという場面で、周辺諸国が独自の判断で介入することは、決して非難されることではない。国際法的には違法であったとしても、ひとつの民族を見殺しにするよりも緊急処置として、よほど人道的行為といえる。問題は手続きの方法である。こうした緊急事態には、特別な方法だけは許容されるとするなんらかの規定を設けておくことが望まれる。それがないと、湾岸戦争のように一国の論理に押し切られて、国連の国際政治的な価値を危うくしかねない。湾岸戦争では、武力行使容認決議の前に、サダム・フセインとの外交努力を粘り強く続けるべきだったという見解13もあり、決議まで時間がかかるのは、国連の活動内容からいってやむをえないことである。そして国連の国際政治的な価値で最も重要なのは、中立性と考える。後で詳しく述べるが、国連の中立性を支えるのは民主性である。この点に関して、現在の安全保障理事会のあり方は完璧とはいえない。c国連無用論2003年3月20日、米英連合軍は、新たな国際連合安全保障理事会決議のないまま、大規模なイラク攻撃を開始した。第二次世界大戦後、国連中心の世界平和秩序を先頭に立って構築したアメリカとイギリスが、国連を回避して武力攻撃を行ったことから、国連への12松井芳郎,pp.232-233.13明石康、前掲、p.88.283