ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第20回最優秀賞へ、さらには紛争へと転化させる政治エリートの役割と行動である。たとえば政治エリートが政治目的を達成するために、エスニック集団を動員し、操作するなど、政治動員の手段として「エスニック・カード」をきる。特に、民主化移行期に、政治指導者は、「民主化」スローガンのもとで、集団アイデンティティを訴え、「同胞」を動員し、支持基盤を固めるという手っ取り早い方法に訴えることができる。また、エスニック集団がアイデンティティの危機に陥ったさいに、民族主義的なレトリックで集団の団結を説き、武装したりして自衛策に出ると、こうした自衛のための動員は周辺の他民族に脅威を与え、集団間で安全保障のジレンマに陥ることになる。冷戦後のアフリカにおける紛争の多くは、古来からの民族憎悪が紛争に発展したのではなく、こうした政治エリートによる手段主義的アプローチで紛争がつくられていた側面があった。民族紛争の国際政治要因として、「弱い国」という冷戦の遺産も忘れてはならない。アフリカの民族紛争やアジアの民族紛争の多くが、統治の正当性が確立されていない弱い国で、あるいはそうした国の民主化移行期または崩壊過程で発生している。そもそも、アフリカやアジアは、冷戦期には東西両陣営の覇権工作の草刈り場となり、大国は軍事支援や経済支援を行い、それぞれ権威主義体制や独裁体制を支援し、こうした政権の延命に貢献してきた。軍事援助による武器は国内反政府勢力の弾圧に使用され、経済援助は権威主義体制の指導者層民族集団の特権化と腐敗に寄与し、このことで民主化移行期に、紛争が民族紛争の様相を呈するようになり、かつ暴力的になる6。ここまでみてきたように、民族紛争のほとんどは、植民地時代の終焉にともなう国境線の引きなおしに端を発している。つまり帝国主義時代を築いた当事国である、欧米諸国・日本などが原因を作ったと考えることができる。この考えによれば、紛争当事国からすれば、原因を作ったこれらの国に責任があり、これら諸国になんらかの援助を求めるのは当然という論理になる。こうした欧米諸国・日本は国連の加盟国であり、その多くは安全保障理事会の常任理事国であるため、紛争当事民族は国連に救済されるのは当然という論理を持っているかもしれない。しかし国連は、ときには特定民族の一方的なふるまいに対し、6吉川元、加藤普章、pp.14-16.279