ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

などが指摘されている。武器の存在が、分離独立を勝ち取るうえで、期待をもたせることになり、武力紛争の促進要因となる。たとえばボスニア紛争では、セルビア人勢力にはユーゴスラヴィアから、そしてムスリム勢力には中東のイスラム諸国から資金や武器が移転されたように、紛争の兆候が顕著になると、周辺の同胞や民族ネットワークを通じて、武器や資金の援助がなされる。さらに国内レベルの民族紛争が、周辺国を巻き込む地域戦争に発展する場合がある。1987年のインドのスリランカへの介入にみられるように、特定集団の救済を目的に介入する場合もあれば、99年のコソヴォ紛争へのNATO介入のように、人道的目的や民族紛争の波及の防止を目的に大国が介入する場合もある。前述した世界の紛争から考えられる紛争の起源は、「大国」にあるといっても過言ではない。帝国主義によって植民地化された国々に、あるいは冷戦時代、共産主義によってまとめられた国々に、大国がその支配をやめたとき、民族問題は発生している。このような小国からすれば、小国は大国による支配の被害者なのであり、大国が新興小国に援助するのは当然であると考えるかもしれない。しかしその一方で、こうした起源ゆえに、国連において大国の影響の影が見えると、民族問題を抱える国は警戒し紛争解決が進まないという現象があるのも事実である。d紛争の要因民族紛争研究の多くが、紛争の国内要因として、1民族集団のアイデンティティを保持しうる地理的・構造的要因、2特定民族集団のみに政治参加を保障したり、特定集団の利益を優先したりするような差別的政治制度による政治要因、3特定地域や集団を優遇する差別的経済制度による経済的要因、4集団間での不平等な教育機会や、マイノリティの言語の使用禁止などによる同化政策、といった社会的要因を指摘する。しかしながら、こうした要因のすべてが、あるいはその一部が備わったところで、自動的に民族紛争が発生するとはかぎらない。これらの要因が、大衆レベルでの不平等感、さらには民族憎悪の醸成要因であるにせよ、重要なことは、こうした大衆レベルでの不安定状況を決定的な対立278