ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

であるという「錯覚」、などである1。こうした期待や批判のあるなか、国連は現実に事務局を持ち、あらゆる分野の機構を持ち、生身の人間が活動している。現実的な国連の活動として、民族問題とどう対処すべきなのか。現代の民族問題と国連の関わり方について検討する。1民族問題a民族とはまず民族について定義する。国語辞典2によれば、民族とは、「同一の人種的並びに地域的起源を存し、または有すると信じられ、言語・生活様式・心理的習慣・宗教・歴史などを共有する人間の集団、歴史的・文化的な概念」とある。そうすると、民族はかならずしも1つの国家に1つではなく、1国家に複数の民族が生活している場合もあるし、ある民族は複数の国家で生活している場合もあることが想像できる。例を挙げると、「ユダヤ人」といえば、宗教によって定義された民族なので、イスラエルに暮らすだけでなく、アメリカにも、ロシアにも、多数の国家で生活している。また、パレスチナ人は、土地に根ざした民族なので、パレスチナ地方に多くは生活し、一部イスラエル領内にも暮らしている3。現在、191カ国が国連に加盟しているが、この地球上におけるいわゆる「民族」の数は、3300を越えるといわれている。これらの数を較べてみてすぐわかることは、「国民国家」がひとつの民族であることはまれで、ほとんどが「多民族国家」であろうということである。そしてそれらの多民族間の関係は、フラットなものではなく、支配的民族と少数民族の非対称的関係であったり、歴史的事情によって、国民国家の領域と民族社会の居住地域にズレがあったりと、民族紛争の条件を抱えている4。ここでひとつ問題なのは、民族問題をかかえる加盟国は、支配側の民族は国連での議決権を持つことができても、被支配側の民族は、たとえ虐げられていても、国連においての議決権を持っていないことである。国としての参加は許されていても、抑圧されている民族の民意は国連において反映されることがないのである。こうした声をいかにして拾うか2761明石康:国連から見た世界:pp.85-86,サイマル出版会、東京、1992.2久松潜一監修:新潮国語辞典-現代語・古語-、新潮社、昭和57年.3広河隆一:パレスチナ新版、岩波新書、岩波書店、pp.198-240、2003.4田口富久治:民族の政治学:pp.1-4,法律文化社、京都、1996.