ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

勿論、これが杞憂に終ればそれに越したことはない。国際連合はこれまで通り国家や民族の対立・紛争を個別に解決していけばいいだけの話である。遅いの手ぬるいのと叱られながらも、国際連合はその役割を着実に果たしてきた。いくつもの成功と失敗を積み重ねることで確実に前進してきた。だが、『地球市民社会の時代』という新しいステージに突入してしまえば状況は違ってくる。『国家の時代』のルールや常識は全く通用しなくなる。そこは今のところ(例えばアルカイダの如き)勝手な「正義」が横行する完全な無法地帯である。国際連合が警戒され監視されなければならないのは、これからは国際連合の一挙手一投足がそのまま無法地帯のルールになってしまうからでもある。PKO(国連平和維持活動)が、そんな無法地帯において「正義の保安官」ならぬ「正義のテロリスト」に絶対ならないという保証はどこにもないのである。もしかすると21世紀の中頃には、「戦争」とか「紛争」などという言葉は死語になっているのかもしれない。国と国とが命運を賭け、正面から軍事衝突を繰り返してお互いに大量の戦死者を出すような愚かな戦争や紛争は、(中世の騎士と騎士の戦いのように)歴史の中でしか語られなくなっているかもしれない。但し、その代わりに「介入」・「制裁」、あるいは「指導」などという名の大量殺戮が年中行事化している蓋然性は高い。平和を求めて、また地球規模の人道・人権の実現を求めて積極的かつ性急に活動しようとした時、人類は必ず独善という罠に陥ってきた。私の最大の懸念は、軍事技術の飛躍的進歩(RMA)によって戦争の悲惨さが隠蔽されようとしていることである。例えば、湾岸戦争において米軍側の戦死者1名に対してイラク側の死者は1万人近かったと推定されている。この比率からすれば、通常兵器も核兵器も今や紙一重の差でしかない。要するに、それはもはや戦争・紛争と言い難い代物なのである。「圧倒的勝利」はいつの間にか「圧倒的正義」にすり替えられてしまう。しかも、善意266