ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第19回奨励賞人類の歴史において、権威と権力の移行がスムーズに、また平和的に行われたことなどない。二度の世界大戦がその代償であったにしても、『国家の時代』はまだ十分な余力を残している。国家間の対立はまだまだ続くであろうし、その間に地球市民が割って入ることで国際社会は一層複雑化していく。そして最終的には、アメリカの政治学者S・ハンチントンが『文明の衝突』と呼んで警告したような、地球市民と地球市民との対立の構図さえ予想されるのである。4国際連合の新たな役割世界の歴史は下手な推理小説に似ている。最も善良そうな人物・最も疑わしくない人物が真犯人であることに決まっているのである。「今度こそ」というのは絶対に通用しないのだが、そうと分かっていながら読者はついつい騙されてしまう。「まさか」と「やはり」の間を何度か往復しているうちにエンディングは近付いてくる。もっとも小説の中ならそれで構わない。連続殺人事件と言ってもせいぜい三つか四つ死体が並ぶだけである。「なんだ」・「やっぱり」で無事一件落着となる。しかし、現実の世界はとてもそんな数では済まない。戦争・紛争と名が付けば、最低でも千人単位・万人単位の人間が未来を奪われる。戦闘員と非戦闘員、勝者と敗者を区別することすらナンセンスである。戦争の悲惨さと言うといつも孤児や難民、また女性や老人に片寄りがちだが、兵士ならいくら死んでもいいというわけではないだろう。戦争に加害者も被害者もない。総てが犠牲者なのである。実は、ここまで私が述べてきた事柄の大部分はそのまま国際連合に当てはまってしまう。「非政府」・「非営利」という視点からすれば、国際連合(the United Nations)はローマ・カトリック教会と共に世界で最大のNGO・NPOであり、『地球市民社会の世紀』にあって世界の恒久平和の実現を目指す「正義の保安官」である。ローマ・カトリック教会は既に過去の過ちによって「政教分離」という頑丈な鎖で縛ら263