ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第19回奨励賞近代の戦争を単なる野蛮な殺戮や略奪と同視してはいけない。それは『国家の時代』が自ら生き延びる為に考案した一つの法技術であり、ルールであり、制度である。それ故に、近代戦争においては戦時国際法に反しない限り何千人何万人殺そうと犯罪ですらない。そこでは、(国家利益を追求・保護する為に)戦争する権利=交戦権・自衛権は主権国家が独占すべきものとされた。しかし、『国家の時代』が終ってしまう、あるいは『国家の時代』を終らせてしまおうと言うのであれば、これら従来の国際社会・国際紛争の常識もまた非常識へと逆転することを私達は覚悟しなければならない。すなわち、1国際紛争の当事者は国家に限定されず、2国益の衝突なくして国際紛争が起き、3戦争する権利は主権国家以外にも開放されることになっていくと考えられるのである。21世紀の国際社会を考えようとする時、どうしても9.11を避けて通ることは出来ない。しかし、勘違いしてならないのは、この同時多発テロで世界や時代が変わったわけでは決してないということである。それは世界や時代が既に変わってしまっている現実、あるいは変わろうとしている現実を鮮明に提示したにすぎない。それが「新しい戦争」(new war)であることに異論はないものの、そのどこが新しいかについて十分に議論がなされたとは到底思われない。戦う相手が国際テロリズムであると言うだけであれば、単にミリタリズムでもファシズムでもコミュニズムでもなくなったというほどの意味にしかならない。民間旅客機を乗っ取って高層ビルに激突するという手法も確かに意外であり卑劣ではあるが、制空権を確保して悠々堂々と敵の頭上に爆弾の雨を降らせたから立派というものでもないだろう。彼等も出来ればそうしたかっただろうが、現実にとても不可能だからあのような自爆攻撃になってしまうのである。また、民間人のみを無差別に狙ったとの指摘も当たらない。実際、彼等はホワイトハウス・ペンタゴン・貿易センタービルというアメリカの政治・軍事・経済の三大中枢に対する同時攻撃を敢行したのであって、たまたま後二者が成功してしまっただけのことである。255