ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第19回優秀賞ラムは、紛争後の問題(post conflict issues)、ガバナンスと多様性の問題、そして暴力的な社会における調査方法論に重点が置かれているという10。INCOREはまた、こうした自らの活動に関しては政策評価部署(Policy and Evaluation Unit)を設けており、政策担当者や実務家による紛争調査(conflict research)の利用がより効果的なものになるよう努めている。こうした活動を基礎として、INCOREはまたインターネットを通じた紛争情報サービス(Conflict Data Service)を行っている。これは、全ての主要な現在発生している紛争につき、現状のあるいは歴史的な情報を提供するものである。情報は、紛争に関連する様々なものであり、また世界中の紛争解決制度(conflict resolutioninstitutions)の情報が含まれる。以上に見たようなINCOREが国際紛争の解決と直接的に関連する国連大学の活動である。しかし、疑問なしとしないわけではない。何故なら、率直な疑問点として第一に、なぜ英国の特定の大学との協力関係しか維持していないのか?と思われるからである。国連加盟国は今や191を数え(2002年11月現在)、国際社会のほぼ全地域にわたっている。にもかかわらず、いわゆるアングロ・サクソン文化に属する一大学との研究協力を行っているだけで最善であると満足しているのであろうか?国連憲章が地域的機関による紛争解決の試みに対して先議権を与えているのは、かかる地域における政治的・文化的背景の共有が紛争解決に有益であるとの観点からであったはずである11。それならば、アフリカや中東、そして南米やアジア地域においても欧州におけるアルスター大学のような大学があっても良いのではないだろうかと考える。紛争に関する情報等については、最終的には国連大学本部あるいはアルスター大学を中心とし、系統立てられた合理的な管理体制で国際紛争の解決に関する研究に取り組むべきであるように思われる。第二の疑問点として指摘したいのは、INCOREによる研究成果がどれだけ現実の国際紛争の解決に貫献しているのか?ということである。現に、国際法あるいは国際機構論を専門とする研究者でさえINCOREを知る人は少ないであろう。こうした状態が続けば、国連大学は「国際紛争解決のための研究機関」としてではなく、「研究者のための研究機10http://www.incore.ulst.ac.uk/11 憲章52条2項は、「前記の取極を締結し、又は前記の機関を組織する国際連合加盟国は、地方的紛争を安全保障理事会に付託する前に、この地域的取極または地域的機関によってこの紛争を平和的に解決するようにあらゆる努力をしなければならない。」と規定する。中村道「地域的機関先議の主張―国連憲章の限界―」(一)~(三)『岡山大学法学会雑誌』第21巻1号、3・4号、第27巻1号(1971年・1977年)。241