ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第18回優秀賞しかし、円が80年代初めのレベル、即ち、現在の半分に下がっても、日本の国連機関でのプロジェクトの受注が増えるかというと、単純に言いきれないのが現状である。まず、国連機関のプロジェクトは、英文での提案書を初め、入札手続きが複雑で日本人にはなじみがないものが多い。手続きを理解するのには、日本以外に本拠を構える国連機関の調達部門に問い合わせる必要があるが、国連における日本人スタッフの数は限られている。また、欧米では、NGO9やNPO 10の活動が人道的な支援に留まらず、環境や資源開発、工業開発といった科学技術に関わる面でも活発である。これらNGO・NPOは、機動力の良さと限られた予算で活動することを主旨としているため、日本の企業が競争しようとしても太刀打ちできない。さらに、こうしたNGO・NPOは、国連本部や専門機関本部と地理的にも近い場所にあるためにプロジェクトの発足前から事前情報を掴みやすい等、日本企業にとっては不利な条件があげられる。即ち、80年代以降の円高と2国間援助を行うJICAの豊富な資金により間接的に庇護されてきた日本の人的貢献の国際競争力は著しく低い。従って、国連機関における日本人の人的貢献の機会は限られており、それに伴い国連機関による途上国支援を通した人材育成に期待できないのが現状である。知的貢献の可能性と問題点国際貢献における知的貢献の重要性を認識しつつあるとはいうものの、日本は、果たして国際的な教育重視の風潮の中で、知的競争に打ち勝ってゆけるのだろうか。歴史的に世界でも高い教育水準を誇ってきた日本も、英国を初めとする先進国の教育重視の政策や韓国や中国などの科学技術教育での急激な追い上げで、すっかり色あせた感もある。例えば法制度整備についてみると、日本ではアメリカのロー・スクールに対抗して法律大学院構想が具体化されつつあるものの、アメリカや英国に比べ弁護士の数、法律事務所の大きさと数等、圧倒的に少ないのが現状である。もちろん、米国の弁護士資格と日本のそれが同一でないことや日本では資格よりも経験が重視されることを考慮しても、途上国の法制度の整備に貢献できる人材のベースが絶対的に少ないわけである。その他、世界の代表的な会計事務所や経営コンサルティング会社もアメリカに本社を構えると言った具合で、少な9NGO: Non Governmental Organization(非政府団体)。10 NPO: Non-Profit Organization(非営利団体)。121