ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

る政策アドバイサー派遣等を挙げ、「知的貢献基盤」の形成を謳っている2。それを受け、外務省の外郭団体である国際協力事業団(JICA)では、昨年10月に発表された「JICA事業の構造改革の方向性」において、「日本社会が蓄積してきた和魂洋才の経験の伝授」を旗印に、援助人材の育成や、途上国への知的貢献の量的、質的な拡充や中身の充実等を行う方針だという3。特に、知的貢献の中身の充実としては、知的貢献ビジネスの市場形成、大学と国際協力業界のパートナーシップの促進、日本の支援で教育を受けた途上国関係者の知的貢献への活用(南南協力)等を挙げている。南南協力を除くと、上記の知的貢献を行うのが英語を得意としない日本人で、支援を受けるのが独自の伝統文化を持った途上国の人々であることを思うと、人材育成や知的貢献が決して容易な作業でないことは想像に難くない。まず、欧米の人にとっては、自国の技術や制度を自国の言葉で説明すれば良いところを、日本人は一旦、外国の言葉に翻訳しなくてはならない。さらに、後進国の生態系や歴史を無視した画一的な援助を提供しても十分な効果は得られないことから4、途上国自身についての理解が不可欠となる。確かに欧米の科学技術や制度を巧みに取り入れてきた日本人が、途上国の一先輩としてどのように経済の発展に成功したかを伝授することは途上国の役に立つかもしれない。しかし、途上国にとって必要なのは、自国に合った法制度の政策・体制作りであり、貧困対策であってみれば、日本の政策や制度は単なる参考に過ぎない。専門の知識や日本での成功要因の分析に加え、相手国の環境、文化を理解した上での現地への貢献という高度な知的作業が必要とされるわけである。そうした困難の打開策として一部で脚光を浴びている南南協力は、直接途上国に出かけて行くことをためらう日本の究極の選択と映らないこともないが、第3国人を途上国へ向かわせることは、日本が従来の顔の見えない援助を続けることに変わりはない。研修結果評価の重要性財政支出に対する国民の目がより厳しくなったことや、ODAによる援助の形態が人的貢献といった客観的に評価しにくいものに移行せざるを得ないことに伴い、外務省は、評1182http://www.mofa.go.jp.3http://www.jica.go.jp.4大野健一「途上国のグローバリゼーション」東洋経済新報社、2000年10月。