ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第29回優秀賞前者と後者のオプションに、絶対的な優劣はない。しかしどちらが人々の国連への期待に応えることになるかと言われれば、前者であることは自明であろう。だからといって、人々にとってより良いことだという結論には直結しないのだが。4.結語に代えて―「理想と現実」の歯がゆさ「理想を語るのは簡単だ、それを実行に移すのが難しいのだ」―ありふれた、当然のような言葉である。しかし私はこう言い換えたい。「理想を否定するのは簡単だ、それを持ち続けるのが難しいのだ」。依然国際政治は国家を単位とした秩序に基づいていることからしても、国連が世界を実効的に統べるような構図は単なる妄想に過ぎない。しかしそれでも、恐らくは名目上であっても世界の政府の連合体としての国連が、普遍的な理念を提示する上で最も強い正統性を有していることには議論の余地がない。国際人権規約、難民条約、ジェノサイド条約など、国際理念としての条約締結において国連が世界にビジョンを提示する最も重要な役割を担ってきたことは、疑いようがない。むしろ我々が国連という存在を無意識に信用できる頼もしいものだと感じるのは、国連が何か実際的な行動を起こすからというよりも、それが理想を掲げているからであった。それがあるがゆえに、国連は度重なる実行面での機能麻痺と失敗が有っても、今日までその地位を維持してきたのに違いない。その意味で、国連の生命線は加盟国のコンセンサスに基づく「最大公約数」としての理想の提供にあったのではないだろうか。研究者、あるいは各国政府関係者が国連の「現実」を指摘するのは当たり前の事である。しかし国連自身は、それを決して言ってはいけないだろう。国連は建前であっても、高尚な理想を掲げて生まれた。人々が期待を寄せるのも、厳しい現実に支配された世界の中で少なくとも国連には理想を感じられると思うがゆえである。だから国連が理想を諦め「現実」に対応し続けるならば、そのような期待は消え去るに違いない。そしてそのような組織は、現実が変わりつつあることにも気付きはしない。1053