ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

2.1大国による国連の政治的利用と非国連化元国連大使の波多野敬雄は「国連とは平和を守る機関として神棚に崇め奉るような、清廉な存在ではなく、(中略)一九一の加盟国が自国の国益を守るために、そして国益を推進させるために手練手管を要する、非常に泥臭い国際機関」だと述べている13が、その言葉の通り国連はその掲げる理想とは裏腹に、極めて政治的な場として利用され、中でもその設立に中心的に携わったいわゆる五大国特に米ソによって、その活動を麻痺させられることもしばしばであった。設立後しばらくは加盟国の中で西側を支持する国の数が圧倒的であったことから、アメリカは国連、とくに数の論理が効く総会を積極的に利用していたが、やがて独立した旧植民地がアメリカの期待に沿わず非同盟路線あるいは親ソ路線を取るようになり、先進国と途上国の対立が深まると逆に国連から離れる、あるいは国連を否定するようになった14。この動きを河辺一郎は「非国連化」と呼んでいる。以上は一般的な話だが、安全保障分野においてもその権限が大国の思惑に常に左右されてきた。二度の大戦への反省から国連に安全保障上の権限を集中させることが当初の理想であったが、実際には冷戦下でNATOやワルシャワ条約機構という、集団安全保障ではない集団的自衛権の枠組みによって武力行使の役割が担われることとなった15。国際の平和と安全の維持という精神を共有していながら、自国にとって国連が都合の悪い機関であるときには国連にその実行を許さない姿勢がとられたのである16。そうした大国の政治的思惑に可能な限り左右されないためにも作られたのがPKOであったが、国連の安全保障上の機能が安保理に集権化されていることからPKOですら大国の影響を免れ得なかった17。国際人道法および人権法の違反が「国際の平和と安全に対する脅威」として認定されるようになったことは前述の通りだが、一方でこの脅威は定義上非常に曖昧で恣意的な解釈の余地を多分に残す概念である18。全く同じ人権蹂躙であっても、それが脅威として認められる場合と、国際社会から無視される場合がありうるということだ。それを認定する権限が安保理にあり、その安保理が常任理事国という存在を認めている限り、必然的にその認定は大国の政治的意思の影響を免れ得ない。例えば、東ティモールのPKOにおいて、紛争の当事104213波多野(2003)96-97頁14河辺(2004)第二章から第四章参照15河辺(2004)78頁16河辺(2004)85頁17石塚(2004)21頁18中山(2005)62頁