ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

る債務削減に関心がいくため、紛争激化への配慮はおざなりになりがちだという42。以上、先行研究でも論じられてきた第四・第六・第七の点に加えて、新たに第一・第二・第三・第五の点をディレンマとして指摘した。これまで個別に論じられることはあっても必ずしも包括的には論じられてこなかった諸点を結びつけて「部分最適のパラドックス」として問題視してきたわけだが、これら7点は二つのパターンに分類できる。一つは、各政策の背景にある相互に異なる個別的利益・価値がそれぞれ尊重されるがゆえに生じるものであり、いま一つは、各政策の背景に共通の利益・価値があるにもかかわらず生じるものである。部分最適の積み重なりが必ずしも全体最適とはならないとの指摘は、これまで前者の場合のみを想定してきたが、本稿では後者の場合をも示した。人道状況改善を目指す政策と多国間主義を尊重する政策とが衝突している第一・第二の点が前者、人道状況改善を目指す政策どうしが衝突している第三・第四・第五・第六・第七の点が後者に当たる。では、このような「部分最適のパラドックス」に、どのように対処すればよいのだろうか。ここまでみてきたように、両立困難かつ取捨選択困難な政策どうしが衝突しているディレンマである以上、容易には解き難い。この点は、自覚しておかなければならないだろう。もっとも、先述のとおり、あらゆる国連の課題の原因が「部分最適のパラドックス」であるわけではない。国連の活動が非効率や非連続であったり、そもそも人道危機への関心が低かったりするがゆえに、人道状況を十分に改善できないというケースも存在する。ここで重要なのは、あらゆる課題の原因を「部分最適のパラドックス」という解決困難な問題に帰して諦観することではなく、現前の課題の原因を見極める力を養うことである。国連の人道危機への関心の低さによるものなのか、活動の非効率性や非連続性によるものなのか、それとも「部分最適のパラドックス」によるものなのかによって、処方箋が異なってくる以上、三者の区別は重要である。ラインホールド・ニーバーの顰にならっていうならば、変えるべきものと変えることのできないものとを見分ける力が必要なのである。また、「部分最適のパラドックス」という原理的問題の存在を自覚して、人道状況改善を懸命に目指しながらも敢えて期待を低く設定しておくことで、関与・介入疲れに陥るこ103242古川(2008)pp.48-51を参照。