ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第29回優秀賞ICC設立後の国連では、不処罰を容認する和平案は支持しないという方針が明確にされている38。その結果、訴追に対する領域国政府指導者の不安を払拭できず譲歩への誘因が失われるため、和平案受け入れを伴う人道状況改善への同意確保が困難になると考えられるのである39。ここにもまた、解き難いディレンマがある。第五に、平和構築活動が拡大するあまり、人道的介入の実施が困難になり人道危機が深刻化しかねない。長期化する平和構築活動を国連が多角的に行なうことができれば問題ないが、多角的に行なう見通しが立たない場合には、そのコストの大きさをまえに人道的介入に尻込みすることとなりかねない。近年では人道的介入をしておきながら平和構築を行なわないまま撤退するわけにはいかず40、しかも、長期的な平和構築のコストは短期的な軍事介入のコストを遥かに上回るものだからである。もっとも、あらゆる人道的介入を問題視する立場からは、その不発は何ら問題とならず、ディレンマとならない。しかし、「武力行使は最後の手段でありながらも大量殺戮に対しては決して無視してはならない選択肢である41」というのが、冷戦終結後の人道危機政策を担ってきた国連の認識である。一方、人道危機の再発を防ぐための平和構築のメニューを減らすわけにはいかない。ここにも、やはり解き難いディレンマがある。第六に、人道支援を促進するあまり、人道状況改善への領域国の同意確保が困難になり人道危機が深刻化しかねない。これは、人道支援の性質上、必ずしも紛争が終了していない段階で行わざるを得ないことに起因する。援助物資が流用され、紛争の資源として利用されることで、かえって紛争が長期化する場合があるという指摘は、人道支援のディレンマとして先行研究で繰り返されているところである。ただし、近年、紛争激化という弊害に配慮した方法が模索され始めている。第七に、MDGsとPRSPを目標・手段とする開発援助を促進するあまり、経済格差を助長し、人道危機の発生・再発を誘発しかねない。ここでも人道支援の場合と同様に、紛争激化という弊害に配慮した方法が模索され始めてはいるが、MDGsの達成を意識する援助供与国側は経済成長促進による貧困削減に関心がいき、途上国側もPRSP策定によ38 UN Document, S/2004/616(23 August, 2004)を参照。39下谷内(2012)pp.57-76を参照。40Holzgrefe&Keohane(2003)pp.278-82,Blair(2010)p.248を参照。41 UN Document, A/54/2000(27 March, 2000)を参照。1031