ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

年3月以降のシリアにおける人道危機に対しては、国連は有効な政策を打てないままである。マリ北部介入に伴う2013年1月のアルジェリアでの人質殺害事件は、介入国の文民の生命に被害が及びかねないとの新しい懸念を惹起した。活かすべき教訓は、まだ残されている。しかし、このような成果の原因と対策こそが、実は課題の原因ともなりかねない。この逆説めいた関係を第3節で考えてみよう。3.部分最適のパラドックス―課題に関する原因と対策―第1節で確認したような国連の人道危機政策の課題は、なぜ生まれたのだろうか。この原因として、大別して3つの問題点を指摘できる。第一は、国連の人道危機への関心の低さである。たしかに、ルワンダの事案のようにほとんどの加盟国が関与・介入に躊躇することがあり得る。そして、その対策として地域機構に任せることがしばしば提案される。しかし、被介入国の諸勢力に政治的利害が強い近隣国政府の存在ゆえに、必ずしも有効ではない面もある29。実際、ジンバブエの人道危機について、当時のイギリス首相トニー・ブレアは、ムガベ大統領を追放したかったが、自分には一向に理解できない理由で周辺のアフリカ諸国がムガベ政権を支持し続けたため、現実的な政策ではなかったと振り返っている30。また、ダルフールに派遣されたAMIS(アフリカ連合スーダン・ミッション)が資金・人員不足に悩まされ続けUNAMID(国連・アフリカ連合ダルフール・ミッション)へと引き継がれるに至るなど、能力不足も否めない。第二は、国連の官僚機構ゆえの非効率性や31活動の非連続性32である。人道危機へ関心を持って取り組んだ場合でも、その活動が効率的かつ有機的に結びついたものでなければ成果は乏しくなる。この点は、瑣末な技術的問題などではなく、政治学・行政学などの知見も用いて対策を立てるべき重要な問題である。国連批判自体を目的化した一部の議論に振り回される必要はないが、国連を人道危機下の文民の期待に応えられるだけの組織に改革し、活動を継ぎ目なく行なう必要性は、多くの先行研究が指摘しているとおりである。先行研究が充実している以上の二点に比べ、存外論じられないのが、本稿が指摘する「部102829 Mayall(2000)p.147を参照。30Blair(2010)p.229を参照。31 国際NGO職員と国連職員双方の立場を経験したうえでの貴重な指摘として、渡部(2011)pp.400-03を参照。とりわけ、部局や組織の枠を超えた横断的調整や協力体制の欠如が問題視されている。32星野(2004)pp.36-37を参照。非連続性の克服には、上述の非効率性の克服が必要となる。