ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

では、このような政策は、どのような結果をもたらしたのだろうか。先述のとおり、成果と課題の双方を指摘できる。まず、成果として、これらの政策により人道状況が改善された事例が少なからずある。東ティモールは比較的短期間で政策が功を奏した事例であると考えられている8し、ボスニアやコートジボワール、リビアのように部分的には失敗し時間をかけることになりつつも、最終的には政策が功を奏した事例もある。また、ジェームズ・フィアロンが指摘するように抑止(予防)の成功は目に触れないため過小評価されがちである9が、これらの政策ゆえに人道危機の発生が未然に防がれているとも考えられる。一方、課題としては、上記のような努力にもかかわらず、ソマリアやルワンダ、ダルフール、ジンバブエそして現在のシリアのように、人道危機の深刻化をとめられない事例が少なからずある点を指摘せざるを得ない。厳しい指摘ではあるが、人道危機下の文民の期待を考えれば、国連の役割として甘受すべきだろう。2.教訓を活かした政策の進歩―成果に関する原因と対策―第1節で確認したような人道危機政策の成果を、なぜあげることができたのだろうか。それは、人道危機の発生・深刻化・再発をとめられなかった先例の教訓を活かし、国連が新たな政策を次々と生み出してきたからだと考えられる。以下、時系列に確認していこう。まず、湾岸戦争末期の1991年3月に起きたイラク北部の人道危機を考えてみよう。クルド人に対する中央政府の抑圧は1930年代より度々なされてきたが、従来とは異なるのが国際社会の対応であった10。イギリスからの介入協力要請を受けたアメリカを中心に多国籍軍が結成されたのである11。この軍事介入は、冷戦終結後の人道的介入の第一の事例とされ、人道支援促進や文民保護の面で相対的に高い評価を得ているといえる12。藤原帰一は、湾岸戦争という局地紛争に大規模な軍事力を投下し「戦勝」したことで、軍事介入による平和維持に対する過度の期待と、その後の事例で軍事介入をしないことへの反発が生まれ10248複数の事例を比較してこの評価に達したものとしてKaldor(2007)p.21, Seybolt(2007)p.272を参照。9Fearon(2002)pp.5-29を参照。10 冷戦期からのこの変化は、人権規範・人道規範の高まりと捉えられる一方で、米ソ対立の終了により地域紛争が代理戦争である時代が過ぎ去り、一方的抑止が可能な環境下で警察力を投入するように介入ができる条件が生まれたためとも捉えられる。藤原(2001)pp.112-13を参照。いずれにしても、国連が人道危機政策を行なえる環境が整ったのである。11 Power(2002)p.240を参照。12複数の事例を分析してこの評価に達したものとして、Kaldor(2007)p.21, Seybolt(2007)p.272を参照。