ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第29回優秀賞部分最適のパラドックス―国連の人道危機への予防・対応・再建をめぐって―中村長史要約国連1は世界の人々の期待に応えているか。この問いへの答えは、国連に何を期待するかが居住地や立場によって異なる以上、一筋縄ではいかない。本稿では、国連をもっとも必要としていると思われる途上国における社会的弱者を想定して議論を進める。とはいえ、途上国の社会的弱者が直面し国連に解決を期待している課題には、開発・人権・環境・保健衛生・軍縮・テロリズムなど様々なもの2があり、やはり一筋縄ではいかない。そこで、複数の政策領域にまたがって論じつつも具体的に今日的課題を論じるため、本稿では冷戦終結後の人道危機に焦点を絞ることとしよう。1990年代のイラク北部やソマリア、ルワンダ、旧ユーゴ、旧ソ連、東ティモール、2000年代のダルフールやジンバブエ、2010年代のコートジボワールやリビア、シリアなどが事例であり、開発援助・PKO・人道支援・軍事介入・国際刑事裁判・平和構築などの政策領域を扱うこととなる。そして、本稿における社会的弱者の期待とは、人道危機下の文民の期待ということになる。以下、本稿の流れとしては、まず第1節において国連の人道危機政策3にどのようなものがあるかを確認し、その成果(人道状況改善への期待に応えている面)と課題(応えきれていない面)を指摘する。次いで第2節において人道危機政策の成果の原因を分析し、更に成果をあげるための対策を検討する。その後第3節において人道危機政策の課題の原因を分析し、課題を克服するための対策を検討する。最後に、結論として本稿の議論をまとめたい。1 国連には、「議場の国連」と「現場の国連」あるいは「加盟国の国連」と「職員の国連」といった側面があるが、本稿では特に断らない限り両者共を指す。また、Kittikhoun&Weiss(2011)pp.18-23が指摘する第三の国連すなわち「人間の安全保障」や「責任としての主権」といった概念を創出した「研究者の国連」も特に断らない限り含まれる。2テロリズム・開発・気候変動・感染症などの課題への対策における国連の役割を論じたものとして、Thakur&Weiss(2009)pp.18-35を参照。3 人道危機の発生・深刻化・再発を防ぐために行われる開発援助・PKO・人道支援・軍事介入・国際刑事裁判・平和構築などの諸政策を本稿では人道危機政策と呼ぶ。1021