ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第16回佳作る事によって別の難民集団(この場合はパレスチナ難民)が生じ、紛争を更に複雑化・長期化させてしまう危険のあることを示している。たしかに難民状態を恒常化させないためには紛争沈静後可及的速やかに難民を原住地へ帰還させることが理想であるが、前述のように原住地における紛争の根本原因が取り除かれていない限り新たな流血を招く危険が高いのである。ここに難民の原住地帰還のジレンマがあるといわねばなるまい。むすびにかえて以上、国際行政下においた紛争地域における組織的・計画的な1ネーションおよびステート・ビルディング、2住民の移動による政治的単位の再構成とエスニック集団分布の整理を提言してきた。更に付け加えるならば12を可能にする物的基盤整備としての経済開発促進を挙げても良い。民族自決権を否定せず、主権国民国家を国際社会の構成単位とするパラダイムが根本的に変化しないかぎり現状で可能な方策はこれらと大同小異であろう。しかしながら、「主権国民国家を単位とする国際社会」が登場したのはこの数世紀になってのことであり、それ以前またはそれが西欧で登場した後でも非西欧地域は長らく異なった構成原理のそれぞれの地域的国際社会を構成してきた。過去をいたずらに美化・理想化することは慎まねばならないが、異なったエスニック・文化集団がそれなりに共存していた地域や時代もあったのである。これは19世紀中盤以前のオスマン帝国、ハプスブルク帝国、中華帝国のような帝国原理に基づく地域、または西欧列強による植民地分割と独立闘争・非植民地化のプロセスを経る以前のサブサハラ・アフリカに広く存在していた多頭制社会などを考えてみてもわかろう。むろんいかなる構成原理の社会もそれぞれ異なる形で摩擦や紛争と無縁ではありえないが、少なくとも今日吹き荒れている陰惨な民族紛争はきわめて20世紀的な現象なのである。既存の国際社会のパラダイム、とりわけ国際社会において人間の集団が持ち得るもっとも強力かつ有効な単位が主権国民国家であるというフィクションを克服することの方が、877