ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

れていたために一般植民地に較べて高く維持され、またそのことが周辺の一般植民地の行政水準を向上させるという副次的効果をももたらした。またこれらの制度は第1次世界大戦終了から1960年代の非植民地化の時代を通して「領土非併合」「民族自決」(これらは1919年のパリ講和会議におけるウィルソン大統領の主張であった)更には「人民の同権及び自決の原則」(国連憲章第1条-2)「植民地独立付与宣言」(1960年12月、国連総会決議1514)を推進することに少なからず貢献した。それでは委任・信託統治にはいかなる問題点があったのだろうか。欧米(委任統治については日本も)の先進大国が弱小民族を統治するという点で、このふたつの制度には程度の差こそあれ帝国主義的残滓が付随していた事は否めない。第二次世界大戦後の植民地独立運動の激しい流れの中で信託統治も批判を免れず、当初の自治独立付与の日程を早める形で1960年代までに信託統治地城および植民地の大部分が独立国家となっていったのであった。形式にかかわらず、先進国あるいは先進国主体の国際機構の干渉を帝国主義の復活と非難する傾向は現在でもないわけではない。最近ではマレーシアのマハティール首相が東ティモール紛争に介入した多国籍軍の主力が白人国のオーストラリアであったことを「白人優越意識の復活」と糾弾している。同様にブラック・アフリカ諸国にもアフリカの地域紛争に派遣される国連の平和維持軍の構成が白人先進国中心であることにかっての帝国主義支配の残影を見て反発を覚える傾向がある。いまだ歴史的記憶が薄まらないのはやむを得ないかもしれないが、植民地支配者として自国以外の地域に派兵することと、国際社会に代わって紛争の沈静化・治安の回復のため軍隊を出動させることは根本的に異なる。紛争の損害をまともに受ける現地人にとって重要なことは誰が治安を回復してくれるかではなく、いかに速やかに治安が回復されてそれが永続的に維持されるかなのである。さまざまな限界はあったにせよ、原則として行政を単一国が担当していたため責任の所在が明確であったこと、統治期聞が長期にわたったためそれなりに一貫した経済・社会政策を実施する余裕があったこと、委任・信託統治地域の監督が連盟または国連の恒常的業務と位置付けられていたこと、したがってそれに伴う予算が行政担当国、国際機関双方に870