ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

ページ
86/912

このページは 佐藤栄作論文集9~16 の電子ブックに掲載されている86ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

佐藤栄作論文集9~16

けてくれたことは記憶に新しい。近年の局地的民族紛争の激しさも考え併せると、国連の中心的理念たる国際の平和及び安全維持は依然として最優先の課題であることがわかる。上述の状況は、冷戦時代にも存在していたが、東西対立という問題の前に些か小さく見えていたにすぎないのである。しかし、近年特に顕在化した問題として環境破壊が挙げられる。国際平和と安全維持も人類の存在のために強調されるものであるが、国家間の武力紛争を介さずに、人類を滅亡の危機に追いやる可能性のある問題として、地球環境の破壊は国際政治の重要課題となった。環境問題が国際問題として重要化した理由は、主として科学技術及び産業の発達による。例えば、海洋汚染、オゾン層破壊、二酸化炭素の増加、森林資源の破壊等は、従来その規模も小さく環境への影響も地球の自浄能力の範囲内にあった。しかし、科学技術と産業の発達による大規模な環境破壊は、もはや看過できないものとなり、人類の生存を脅かすものとまでなっている。そして、環境問題の特殊性は、破壊が一国内で行われてもその影響は地球規模で波及し得るものであること、既に環境破壊の上に繁栄を築いた先進国と多少の環境を犠牲にしても自国の発展を望む途上国とで意見の対立が激しいことにある。国連では、はやくも1972年に人間環境宣言を採択し、環境問題の将来における重要性を認識していたが、その後、オゾン層破壊や海洋汚染、環境破壊兵器の規制等に関する若干の条約が存在するのみで、未だ十分な対策とはいえない。ところで、環境のように人類の生存の為に不可欠な利益は、国際社会の基本的利益として、国家の枠を越えて各国の意見の相違にもかかわらず擁護していかなければならない11。環境保護は国際公益として、国連でも従来以上に積極的に取り組む必要があろう。(4)新時代における国連の理念と役割環境問題が示唆するものは、国家間の紛争解決を行うだけでは、もはや人類の平和的共存には不十分であるという事実である。国際平和と安全という場合、そこには国際社会の基本的構成単位である国家を中心として考え、国内法では律しきれない国家間の問題、とくに「紛争」を国連が中心となり処理していくということが暗黙の前提にあったように思8411島田前掲書11頁。