ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第9回佳作火種は多い。この原因を分析し対策を考えることが、国連の理念と役割を探る上で最も重要な作業といえる。現在、武力行使を含む現実の紛争となっているものに民族問題がある。かつては宗主国からの植民地独立が主要な問題であったが、植民地独立がはたされた現在、一国内の民族対立による紛争がその特徴である。武力行使に至る紛争ではないが、冷戦が終焉した現在の国際社会における最も大きな対立としてあげるべきものは、南北問題であろう。先進国と発展途上国との立場の相違は、いまや国連で討議される政治的・経済的問題のあらゆる争点について和解しがたい対立を持ち込んでいる。更に、途上国側でも資源を有する国とそうでない国との間の対立、いわゆる南南問題がある。最後に冷戦の落とし子として、科学技術の発達に応じて高度化した核兵器を含む軍備の問題を挙げねばならない。確かに全面核戦争の脅威は減少したものの、先進国は軒並みに高度な軍備を有し、自国で兵器の開発・生産能力を有しない国も比較的自由な兵器取引により軍事大国となっている国が多い。そして冷戦中に核兵器は世界に拡散され、その偶発的使用が危ぶまれる状態である。このような現状は、冷戦の終焉が必ずしも国際の平和と安全に決定的なものではないことを物語っていよう。上述のように、世界的規模の戦争の危険は確かに減少したが、冷戦の特徴であった、1和解しがたいイデオロギーの対立、2世界的規模での対立、3核兵器による威嚇を伴う対立という危機の構造は、程度の差こそあれ、主役を変えて依然存在しているといえるのではないか。即ち、新国際経済秩序樹立宣言(NIEO)に代表されるように途上国は先進国による依存の体制に反発しており、これはある意味では「和解しがたいイデオロギーの対立」といえる。冷戦との最大の違いは、途上国側には先進国に対して戦争に訴えて自己の主張を実現する経済的・軍事的条件が揃っておらず、またその意図もないということである。この対立は特定国家間の問題ではなく、南北問題という言葉が示すように世界規模での対立であって、国際社会の不安定要因となりえる性質のものである。なお、核兵器による威嚇を伴う対立が現状にはないことは喜ばしい限りである。しかし、兵器取引による近代兵器の世界への拡散の脅威を、湾岸戦争でイラクがまざまざと見せつ83