ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第16回優秀賞ことである。しかし現在に至っても、国民の心の底には「なぜアメリカが巻きこまれなければならないのか?」との疑問が燻り続けている。今回のコソボ爆撃のケースは、「好戦的なアメリカによる国連無視の非合法行使」とよく非難される。しかし、クリントン政権にとっては、できることならばNATO単独というシナリオを回避したかったことには間違いない。明確な国益が希薄な地域紛争への介入が、いかに国内から支持を得にくいか。これが、軍事作戦への国民支持を得るために微妙な綱渡りを強いられた世界の超大国、そして国連安保理常任理事国でもあるアメリカにおける実情である。他方、もう一つの安保理理事国である中国は、コソボ紛争をやがて起こりうる台湾紛争の前例と見なした。国内紛争に外国が介入する根拠を与えてはならない。いかなる軍事制裁にも否定的であった。国内報道でも「NATO軍攻撃は主権国家への内政干渉」とのキャンペーンをはり、ミロシェビッチ政権による組織的虐殺の実態に関する報道は流れなかった。これらの実情は、地域紛争を大国の国益と切り離してはもはや語りえないことを如実に物語っている。一度、紛争が勃発してしまうと、介入側の明確な国益が危険に晒されていない限り、国際社会が最適のタイミングで対応することは極めて困難となっている。国連が現在直面している課題はまさにここにある。多発する国内の民族紛争と、安保理理事国を始めとする関係国の国益との間にいかなる関連性を見出しうるか。この点が明確化されない限り、一度紛争が発生してしまうと国連の紛争処理能力は限定されたものとならざるをえない。紛争を未然に予防することがいかに重要かを認識する必要がある。本稿では、まず冷戦後の地域紛争の性格について分析し、それに対応した国連の紛争処理機能とその限界、国連の平和関連活動と早期警報能力向上のための機構面及び手続き面での改革提案、及び国連・地域機構・同盟関係等を中心とする多層的紛争処理メカニズムの育成について考察を進める。831