ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第15回優秀賞篇)とあるように、古来から性善説は安定的秩序、自律的自生秩序の大前提となっている。これは無政府主義についても同様であって、「国家を敵視する過激主義は、人間の本性が、徹底的に善であることを信じる度合いに応じて増大する」5というカール・シュミットの言葉を引用するまでもないだろう。これはリバタリアニズム、とりわけロスバードらの無政府主義的資本主義にも当てはまる。一方、性悪説は「悪なる者は偏険悖乱なり」(『荀子』性悪篇)とあるように、人間の悪(利己的欲望)に起因する混乱を治めるために、自律的自生的秩序を退け、法など(荀子は「礼」と言う)の強制的規範を求める。IMFがロシアにおいて失敗したのも、政治が不安定であったのに、つまり強制的規範が確立されないままだったのに、市場経済化を進める経済改革をごり押しし、混乱を拡大させてしまったからである。その意味で、グローバル市場主義の代弁者たるIMFも性善説的合理主義に立ったグローバリスト集団であったと言えよう。そこで現在のグローバル市場システムを概観するに、それがほぼ無規律で市場の暴走に対して何人といえども何もなしえないホッブス的自然状態であることは自明である。国際金融市場の無政府状態でも言うべき状態であり、無政府主義が性善説的合理主義に立脚していることは既述したのであるから、この現状を是認する現在のグローバリズム・イデオロギーも性善説的合理主義に立脚していることが理解していただけよう。つまり、現状のグローバル資本主義の基礎は『合理主義的自由主義』であると言えるのだ。現状のグローバリズム・イデオロギーがいくら『見えざる手』と叫んだとしても、アダム・スミス的自由主義経済思想を基礎としていることを示したものではないと私が既述したのもここに理由がある。アダム・スミス的自由主義経済は、ハイエクが好んだ言葉で言えば、『反合理主義的自由主義』であるからである。よって、現状のグローバル資本主義のアンチテーゼとなりうるとは言え、グローバル資本主義の理論的根拠とはなりえないのだ。さらに、グローバル資本主義に対するアンチテーゼとして、『合理主義的設計主義』と『非合理主義的排外主義』がある。『合理主義的設計主義』はマルクス主義的グローバリズム批判からロシアやマレーシアが採ったような統制的な経済思想まで含む幅広いイデオロ5カール・シュミット『政治的なものの概念』未来社。663