ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

を誤ったグローバル資本の妄動によってアメリカの好景気・株高すら不安定化している。だからといって自由市場原理を国益とするアメリカも退くことはできず、どの国も金融の無政府状況とでも言うべき無規律で私的利益のみを価値基準とする国際金融資本の暴風域のグローバル化を黙認せざるをえない状況となっている。こういったグローバリズムの均質性が、冷戦後のアメリカ資本主義の一人勝ち、西欧リベラル・デモクラシーの勝利という思想的な楽観に起因していることはつとに指摘されている通りである。冷戦崩壊当時は、ダニエル・ベルの『イデオロギーの終焉』やフランシス・フクヤマの『歴史の終焉』、ハンチントンの『第三の波』などに代表されるように、冷戦の崩壊によって共産主義という西欧普遍理念の亜流でもある不倶戴天の敵が脱落し、世界は西欧普遍理念(特にアメリカニズム)によって均質化されてゆくだろうという楽観的なビジョンが多くの知識人によってなされていた。後にハンチントンは『文明の衝突』として世界の均質化は夢想だと批判するが、『第三の波』では楽観的な見解を持っていたほどであるから、冷戦後の思想状況は世界の均質化がもたらす対立のない世界という甘いユートピアによって強烈に彩られていたということが容易に察せられよう。それは同時に、つまらない世界でもあり、フランシス・フクヤマも『歴史の終焉』で残念そうに描いているし、リオタールが述べているように、マルクス主義の崩壊は共産社会という理想郷を提示してくれていた「メタ物語」の崩壊であるとも言え、とりわけマルクス主義の影響が根強かった日本の知識層では一種の虚無主義(ポストモダニズム)ブームに堕し、グローバル資本主義を側面支援してしまったことは周知であろう。現実政治においてはソビエト、共産主義という資本主義の箍が消滅し、単一のグローバル市場化、グローバル資本主義のさらなる推進が世界で試みられた。イギリスのサッチャー、アメリカのレーガン、日本の中曽根ら新保守自由主義政権の進めた経済の自由化、市場主義化によって、バブルの対処に失敗した日本以外の諸国は好況を謳歌している。ところが、パラドキシカルなことではあるが、これらの保守政権が採ったグローバル市場主義政策が同時に国内の差異化をもたらし、保守主義の敗北と社会民主主義への移行を招い660