ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

冷戦後の紛争の主流は国家侵略ではなく内戦である。冷戦期には「内政不干渉の原則が厳密に尊重されていたこともあり、国内紛争に国連が直接介入することはほとんどなかった」が、「冷戦が終了した現在、安全保障理事会に持ち込まれる紛争は、国家間の紛争よりは国内の紛争、つまり内戦であることが多く」なる趨勢にある14。また、加害者と被害者が識別しがたい紛争も多い。加藤朗が指摘するように、湾岸戦争自体が紛争としての二面性を持っている15。それは一面ではイラクと多国籍軍との戦いであったが、他方ではクルド族やシーア派住民とフセイン政権との低強度紛争という側面を持っており、安保理と米国は後者に対する有効な解決をなしえなかった。湾岸戦争方式を適用できる対象は明白な侵略行為という存外狭いものに限られるのである。現代の「国際の平和と安全」に対する主要な脅威は、クルド族の紛争に見られるような「低強度紛争(=low intensive conflict以下LIC)」あるいは「曖昧な紛争」である。加藤朗は、LICを「亜国家主体対国家の非対称な紛争16」と定義しているが、要は核戦争や通常戦争とは異なる、テロやゲリラ、内戦等の不正規な紛争のことを指す。冷戦期にもLICは存在したが、それは植民地解放闘争や体制の選択を争点とするものであり、米ソは直接、間接に介入していた。しかし、冷戦末期には米ソのLICへの介入を放棄するようになり、冷戦の終結後は、戦略的重要性のない地域で広範にパワーバキュームが生じることになった。米ソの影響下にあった政権への戦略的支援は停止/削減され、米ソの軍事・経済援助によって圧政を行っていた政権では政治的基盤がゆらぐことになる17。こうして、支配の正統性の喪失から、少数民族や反西欧化勢力、宗教集団を一方の主体とするLICが頻発することになったのである。冷戦後、多くのLICが国連に持ち込まれる。冷戦の終結による大国間協調や湾岸戦争での大勝利が国連の安全保障機能への強い期待を濫觴させ、国連が頻発するLIC紛争に即座にアクションを起こすことが求めるようになってしまったのである。トーバルのいう「国家が見捨てた紛争」の解決が国連に委ねられてしまったのである。「国家がより重要な懸案がほかにあるとみなした場合、あるいは、あまり重要でないのにリスクばかり高い問61814河野勉「国連平和維持活動と日本の参加」『レヴァイアサン』1996年冬号所収11頁。15加藤朗『現代戦争論』(中央公論社)3頁。16同書40頁。17河野前掲論文10頁。