ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第14回佳作ゼンスを確保し、紛争の発生・拡大を未然に防止するようにしようというものである。次に平和執行部隊であるが、『平和への課題』では、その任務は停戦の遵守を確保することにあること、PKFより重装備かつ加盟国から自発的に提供される部隊であること、憲章第四〇条の措置として国連事務総長の指揮下に置かれること、等が主張された。しかし、当事者の同意がなく、強制的な武力行使の権限が認められた点で平和執行部隊の概念を取り入れたソマリアでのPKO活動(UNOSOMⅡ)が失敗に終わったことから、ガリが提起したような国連の強制執行能力には疑問が寄せられるようになり、『平和への課題』の『追補』では、強制執行部隊構想は大きく後退することになった。『平和への課題』は、憲章で想定された安保理/国連軍を中核とする集団安全保障をとりあえず棚上げしつつ7、PKOの枠組みを拡張して、安保理というよりは事務総長を中核として強制活動を実現しようとするものであった。しかし、事務総長が武力行使を含むような強制執行について主導する権限を持つということについてそれほど強い根拠が存在しているわけではない。ガリ氏は、平和創造の強制執行という概念を提起し、UNSCOMⅡの展開を勧告し8、失敗を経た後にその中止を勧告し、また平和執行活動そのものを当面実施しないことを決定したわけであるが、最上敏樹が述べているように「事務総長によるこれだけの措置は、恐らく憲章起草者も意図していなかったことであるし、そうであるなら、そのための権限付与の法的根拠については第98条による包括的委任よりも精緻なものが求められる9」はずであろう。事務総長には、加盟国に命令するような主体ではなく、その権限についてもほとんど規定はないからである。しかし、私たちは『平和への課題』の構想とその失敗から、現代において「国際の平和と安全」を実現していくために、どのような点に配慮する必要があるか学び取ることができるように思われる。まず第一に、ソマリアの例が示すように、国連が創設された際に「国際の平和と安全」への主要な脅威と考えられていた大規模侵略以外にも脅威は存在し、その解決には困難が伴うということである。次に、真に有効な問題解決をするためには、実行可能性に十分配慮しつつ(すなわち主要な決定主体は国家であることを前提としつつ)、7「平和への課題」でも、憲章42条、43条で規定されている国連軍を実現するような特別協定の交渉を開始するよう勧告している。が、実現可能性は低いとの見通しから、平和執行部隊の創設が提案された。8ただし、UNSCOMⅡは、通常のPKOがそうであるように、安保理の決議に基づいて行われた。また、指揮権は国連に置かれたものの、実質的なオペレーションは米軍に依存していた。神余前掲書176頁。9最上敏樹『国際機構論』(東京大学出版会)142頁。615