ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

以上様々な改革の視点をみてきたが、こうした改革案には一つの前提があるように思われる。それは、冷戦という障害が取り除かれた以上、手直しすれば安保理は、従来想定されていた「国際の平和と安全」をもたらすという責務を果たしていくことが可能だろう、という前提である。そのためいずれの視点も、安保理が実現すべき「国際の平和と安全」の中身については自明とし、安保理の制度もしくは運用法の改革についての議論に終始しているように思われる。しかし、それでは議論の順序が逆立ちしているのではないだろうか。国連が創始されてはや半世紀以上が経っており、冷戦という「不測」の事態を潜り抜けてきた世界にとっての平和と安全が、草創期に想定されていたような枠組みで実現可能とは考えにくい。真に論じられるべきは、現在「国際の平和と安全」にとってどのような脅威が存在するのか、そして、国連/安保理がどのような枠組みでそのような脅威への問題解決能力を高めていくのかということであろう。その点で興味深いのが、前事務総長ガリが安保理に提出した『平和への課題』である。この報告書は、直接安保理改革を提起するものではないが、「国際の平和と安全」を国連がいかに担うのか、そのために(安保理とは別のそれも含む)どのような機構が必要か、という視点から国連機構の変革を提案している。先述の諸改革案が、安保理の「機能」は暗黙の前提とした上で、安保理を円滑にかつ正統性をもって運用すべく「制度」上の改革を提起していたのに対し、『平和への課題』は安保理(を中心とする国連機構)の「機能」を整理した上で、必要な制度化へと落とし込んでいこうとしていたように見える。『平和への課題』の中身は周知の通り5である。『平和への課題』の最大の論点は、国連は伝統的な平和維持活動の枠にとどまるのではなく、紛争予防や平和創造にまで踏み込んでゆくべきであると主張したことにあった。以下、その具体的な処方箋として挙げられた(PKO等の)国連組織の予防的な展開と、平和創造を実現するための平和執行部隊の創設について瞥見することにしよう6。PKOの予防的展開は、(伝統的な平和維持活動のように)紛争終了後にPKOを派遣するという負荷の大きいやり方ではなく、紛争の発生・拡大が懸念される地域に国連のプレ6145同報告では、平和と安全のために国連が果たすべき役割を1紛争予防2平和創造3平和維持4平和構築という四つの概念に分類している。6以下「平和への課題」についての記述は、神余隆博『新国連論』(大阪大学出版会)166-175頁による。