ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第14回最優秀賞する国民感情を逆なですることなく力説する努力を政府は続けるべきである。それぞれの国において国益上の相違はあるのであり、時として日本のこうした努力は「説得工作」とみなされ、レトリックとして受け取られるであろうが、この点は先の戦争を引き起こした国として日本がどうしても負担しなくてはならないコストと考えるべきであろう。5.結語東西冷戦の構造がひとまず終焉を告げた今日、国際社会の過去を考察する中で、かつての米ソの核抑止力を背景とする軍事力のバランスが、これまでの国際社会において国家間の紛争を未然に防ぐという観点からは現実にどれだけ貢献できたといえるだろうかという疑念を抱く人々は少なくない(例えば鴨武彦「国際安全保障の構造」1990年岩波書店)。加えて世界で唯一、交戦中に核兵器の使用を経験した国として、日本は第二次世界大戦での敗戦と、その戦争から後半世紀余にわたって日本が歩んできた道とは何であったのかを熟考すべき時期にきている。その際に、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」という日本国憲法前文の精神を生かすことは、決して日本がアメリカ・ロシア・中国と比肩し得るようなリアリズムの世界における大国となることはできないはずである。今日、「冷戦後の文脈で考える」ことの重要性を説く立場からは、日本の周辺有事や国連軍の活動の一環として行う自衛隊の活動に関して、これを政治問題として扱うべきであり憲法問題からはひとまず切り離そうとの主張も耳にするが、不用意にこの主張に従うとき、日本は半世紀にわたって営々として築いてきたみずからのアイデンティティを失いかねず、国際社会からの冷笑を買うことは必至である。日本の国際貢献の方法については、日本が歩んできた途がおのずから示しているように、あくまでも、この国際社会からまずは核抑止力の恐怖を除去し、次いでは軍事力によるバランスにより築かれる平和のあり方を改めていくという、今日のリアリズムの世界からはいささか理想主義的にすぎると受け止められかねないようなやり方をおいて他にある519