ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第14回最優秀賞集団安全保障機構としての国連軍の中で日本の自衛隊はどこまで貢献できるかという議論をする習慣とてなく、仮にこれを論じるとなると、実に現実性の乏しい空想論であったのが実際である。1990年に湾岸戦争が勃発し、ブッシュ政権が日本の積極的貢献を要請する事態が訪れたことは、その意味で日本の憲法学研究者や学生にとっては晴天の霹靂に類する事件であったと思われる。第二に、国民の憲法感覚も同様に、偏ったものとなっている。わが国では今日でも、憲法改正を口にするだけで、いったいどのような政治的立場に立っている人かと品定めされかねない風潮が色濃く存在しており、「護憲派」対「改憲派」という旧時代の構図は決して過去のものではないのである。そのことのために、国民間に憲法を崇高視する傾向がある反面で、身近な問題として憲法論議を戦わせるような自然な憲法感覚が失われてきてしまっている。第三に、極端な硬性憲法としての日本の憲法自体がもっている性格も見逃すことができない。憲法のもつこの性格が、研究者や学生をもっぱら法解釈学としての憲法学に追いやり、片や国民を憲法論議から遠ざけている原因の一端をもなしていると思われる。憲法を改正するためには、衆議院及び参議院のそれぞれ総員の3分の2以上の多数の賛成をもってこれを発議し、さらに国民投票で過半数の賛成を要することとされるのみか、国連の安保理の決議事項に見られるような実質事項と形式事項の区別すら許容していない憲法なのであり、従って、憲法改正のための手続き法はいまだに存在しないのが現状である。これでは、いったいどのような勢力にとって憲法の改正が可能なのかと、現実論者ならば誰もが考えるはずである。このようなわが国の憲法的風土では、国際連合の安保理拡大を通じて日本がいかに国際貢献するかとか、集団安全保障機構の中では日本はどのような行動をとりうるかといった問題はいかなる時にも現実性をもちえなかったのであり、1994年11月3日に読売新聞社の憲法問題研究会が「読売憲法改正試案」を発表した折りには、すでに東西対立の構造は終わりを告げており、世界は湾岸戦争を経験していたにもかかわらず、国民の多くは新聞507