ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

主体にとって、「脅威」となることは容易に推定できることであろう。もう一つは、諸国家の「共通利益(Common Interest)」の存在が認識され始めたということである。地球的問題群は、一国にとっての「脅威」は、同時に他国にとっても「脅威」であるという特徴を持っている。オゾン層破壊や地球温暖化と言った問題は、地球上の全ての国家その他の行動主体にとって、「共通の脅威」である。とすれば、環境破壊を抑止し、地球的問題群の解決というのは、全世界にとっての「共通利益」ということになるのではないか。これは、非常に驚くべき事柄である。人類史上かつて、全世界の「共通利益」なるものが観念されたことは無いように思う。そして、ここでさらに重要なのは、「共通利益」という存在をそれぞれの行動主体が強く認識することによって、各行動主体(特に国家)相互間の「連帯感」「協調意識」と言ったものが生まれてくる可能性があるということである8。以上の二つの現象によって、従来の安全保障観は、大きく二つの修正を受けている。一つは、「国家」のみを安全の主体と考えるのではなく、国家以外の主体の安全をも考えざるをえなくなったことであり、もう一つは、その「安全」に対する「脅威」の概念が、軍事力以外にも拡大されることである。このような「非通常型脅威」にはどのように対処していけばいいのだろうか。環境破壊を始めとする「非通常型脅威」に対して、諸国家はどのような指導理念の下、対応していくことができるだろうか。そもそも主権国家は、自国の安全に対する「脅威」を最小限に食い止めることを行動規範としている。そして、これまでは、その「脅威」とは、主として相手国・陣営の軍事力であった。軍事力という自国に対する「脅威」を最小限にするための方策として、従来は「勢力均衡論(Balance of Power)」「覇権安定論(Hegemonic Stability)」という概念が戦略に取り入れられたのである9。地球的問題群の一類型である環境破壊に着目して、政治学者のBuzanは、「環境安全保障」という概念を考案し、それを「人類がその生存を依存している重要な支援システムと2168これは丁度、冷戦時代に西側諸国が、旧ソ連を「仮想敵国」、西側諸国を「共通の脅威」とみなすことによって、西側諸国の連帯感を強めた、という事実を思い起こすと分かり易いと思う。9国際政治学における現実主義的立場からの主要な二つの考え方である。これについて論じることは本稿の目的ではないので、他の文献(猪口孝「世界変動の見方」ちくま新書1994年などはコンパクトで良い)に譲ることにする。