ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第11回最優秀賞とっての最大の「脅威」とは、まぎれもなく他国の「軍事力」以外に考えられなかったのである。しかし、1970・80年代に入ると、以上のような世界観は、次に述べるような二つの現象によって、大きく修正を迫られるようになるのである3。一つは、国際社会における行動主体に、国家以外のアクターが観念されるようになったことである。言うまでもなく、それは国際組織(IGO)であったり、多国籍企業(MNC)であったり、非政府組織(NGO)であったりするわけである。例えば、1909年の時点では国際組織の数は37、非政府組織の数は176であったが、1951年になるとその数はそれぞれ123、832となり、さらに1986年ではそれぞれ337、4649にまで増大している4。また、二国間条約5で国際組織が締結当事者となる割合も戦後増大してきている。例えば、1946年から1955年の10年間で国際組織が条約締結の当事者となった割合6は9.8%であったが、1966年から1975年の10年間ではその割合は16.5%に増加している7。これまでは、国際社会における利害関係を考える際には「国家」の利益のみを考えていたのであるが、国際社会におけるアクターの多元化により、「国家」以外の主体の利益を考えることを余儀なくされるようになったのである。二番目は、いわゆる「地球的問題群」の誕生である。資源、人口、食糧、飢餓・貧困、麻薬、病気そして地球環境問題などが挙げられよう。これについては、既に様々な場所で議論されているので、その個々の問題について議論することはここでは避けるが、次の二つを強調しておきたい。まず、「地球的」という言葉の中身についてであるが、それは、国家管轄権、自衛権、戦争に訴える権利と言ったある一国に認められた権利の行使のみによっては、最早解決することのできない問題である、ということである。専ら国内社会に関わる問題は、その国家の管轄権(立法・行政・司法権)の行使のみによって解決することが可能であるし、他国の軍事力による脅威も、自衛権の行使によって排除することが可能である。「地球的問題」とは、それ以外の問題、と言うことが出来よう。そして、このような「地球的問題群」特に環境問題は、他国の軍事力と同様に、国家にとって、そして国家以外の3ここでの議論は、2-2の「統治」の中身の変容-「グローバル・ガバナンス」の節における議論の前提にもなっている。4(出所)“Yearbook of International Organizations, 1986/87”, Munich, K. G. Sour, 1988.5従来、条約の締結する当事者能力を有するのは国家だけと考えられていたが、近年、国際組織と国家間、国際組織間で条約が締結されることが増加している。6 Peter H. Rohn,“World Bank Index: Volume 1”(Santa Barbara, CA: ABC-Clio Information Services, 2nd ed., 1984)のデータを基に筆者が加工したもの。7国際組織が当事者となっている二国間条約の数を締結された二国間条約の数で割って100を掛けた値である。215