ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

敵意を見せていたアイディド将軍を軟化させ、長老たちに協力を要請して救援物資輸送の円滑化と治安の安定に努めたため、他の救援活動も効率よく運ぶようになった。兵隊の使用はアイディド将軍らの許可を取った後に最小限展開して、「誠実な仲介者」の域を出ないよう心がけ、次第に各武装勢力からその存在を評価されるようになったのである。現地の事情や伝統を正確に把握し、各勢力の権益を認めた上で妥協を探った彼の行動は今後のPKOの大きな参考になるであろう。犠牲者の増加を防ぐための停戦と罹災者の救助というPKO初期の段階で最も重要な二つをコストパフォーマンスの良い確実な方法で行えるからだ。ところが10月に国連本部がソマリア人の意思にかかわらず軍を増派するとサーヌーンの断りなしに決定してアイディドの猛反発を招き、協調体制は完全に破壊された。国連の官僚的体質はあらゆるところで指摘されるが、今回の場合和平のプロセスをほぼゼロに戻し、武装勢力に国連不信の念を抱かせた。デッドロックに乗り上げた形だったソマリアPKOの活路を国連はアメリカの「希望回復作戦」に求め、92年の12月にアメリカ軍を主体とする国連軍がソマリアに大規模な介入を始めた。希望回復作戦とそれに続く第二次国連ソマリア活動(UNISOM II)は巨大な軍事力を背景に停滞していた救援物資供給を再開させ、その効果はモガディシュ以外では今日も定着している。国連やNGOが無料で食料を配給するため農民が生産意欲をなくしているとも伝えられているが、生産は回復し、飢餓の心配はなくなりつつある。武装をした強盗も減って(その必要がないので)治安も向上した。いくらかの武装解除と将来の政治的解決に向けての土台作りにも成功している。(ただしそれはサーヌーンの「軟弱外交」にも十分に期待できたことだが。)しかし、現在資金面以外での武力介入の弊害が現れ始めている。介入当初は熱烈に歓迎されていた国連軍が多くのソマリア人にとって外圧の象徴と化したことだ。国連軍の主体であるアメリカ軍の兵士達がソマリア人達のイスラム文化に十分な理解を持っておらず、裸での水泳など一部の行動が侮辱と見なされたのも一因だが、アイディドが表立って反国連運動に走ったのが最大の原因である。各武装集団はアメリカの支持を得て自勢力を拡大196