ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第28回佳作4.2.国連が果たすべき役割国連の現在の活動と、安全保障論における研究から得た助言より、自然災害に対する国連の果たすべき役割が導き出される。まず、助言1は次の考察を導く。災害発生時において、「調整役」としての国連の機能はより一層強化されなければならない。またその際、各国の軍と相互に補完的な働きをすべきである。前節で指摘したように、災害支援の局面において、国連の輸送能力は十分でなかった。今村(2007)は、災害の場における軍隊の長所が(イ)艦船や輸送機による大量輸送能力、(ロ)明確な指揮系統に裏付けされた組織力、(ハ)兵站能力を兼ね備えた自己完結能力といった各点にあるとした。各国軍隊の高い能力に鑑みると、国連のそれは相対的に劣り、「有事」における主な活動が「調整」になることは許容されるべきである。したがって、この局面においては、現行の機能をより一層強化すべしという結論が妥当であろう。次により重要な点として、助言2が示すのは、災害の予防に向けた措置をより積極的に行うことの必要性である。この要請は、ISDRの目的と合致する。しかしながら、前節で指摘したように、さらに実効的な政策をとらねばならない。具体的な提案をするならば、地域別に共通の、詳細な「防災基準」を国連が策定することが望まれる32。安全保障の主体は国家であり、各国の防災対策も国家または国家内の地域レベルで行われている。しかし先進国である日本や米国でさえ、未だ自然災害に対して非常に脆弱である。とりわけ発展途上諸国においては、十分な防災対策が講じられているとは言えない。それゆえ、国連がその基準を設定・評価(または関心国が基準に則って評価)した上で、基準に達しない国家に対しては専門家を派遣して技術指導を行い、場合によっては物質的な援助も提供し得るメカニズムを確立することが有効だと考えられるのである。最後に、助言3は次の事柄を要請する。自然災害を含めた脅威に対処するには、予防や被害局限、復興など、多様な取り組みが不可欠である。したがって、自然災害に対して「シームレスな」活動(図3参照)を行うため、(長期的には)OCHA(より正確には、OCHAの自然災害に対応する機能)とISDRを統合する、もしくは(短期的には)両者の上位に32「地域別」としたのは、各地域によって直面する自然災害のリスクが異なるためである。例えば、干ばつの対策は日本にとって重要でないし、反対にモザンビークが大規模な地震対策を講ずることによって得られる効果は小さいだろう。985