ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第27回優秀賞トラック2外交である。トラック2:非政府だが影響力のあるエリート層に対する非公式な介入トラック2においては、政策決定の当事者では無いものの、影響力を持つエリート層に対して、当事者間の相互交流、紛争解決のためのアイデア策定のためにNGOが仲介する活動が行われる。ここで用いられる手法としては、協議などの対話に加え、ワークショップを通したトレーニングなどが含まれる。国際NGOがたずさわる協議は、和平調停ほどはっきりと紛争当事者の意思決定を行うことを目的とせず、両当事者の個人的な見解や関心について、NGOが仲介しながら一緒に共有し、対立の素地を把握することが狙いとされる。ここでNGOは公平なファシリテーターとして活動することで紛争当事者間における紛争解決に向けた対話を進め、両者の現状分析を補佐することで、相手への敵意を鎮めようとする役割を果たす。協議を経て、紛争解決に向けたアイデアを紛争当事者が一緒になって検討し、解決への一歩を踏み出させることがゴールとなる。トラック2において協議に携わってきたNGOとしては「MRA(Moral Re-Armament、道徳的再武装運動)」が有名である7。MRAの設立は古く、その起源は1938年にさかのぼる。当時、アメリカを本拠とする牧師であったブックマンは、ナチス・ドイツに対して武力による再軍備ではなく、精神的力を動員することで対抗しようと考えた。MRAは謝罪と許しによる紛争当事者間の和解を求めて活動を続けてきた。MRAが紛争解決において一定の役割を果たしたと言われるのは、第二次世界大戦後の独仏和解である。活動拠点であったスイスのコーにおいて、当時占領下で簡単に出国できなかった各レベルのドイツ人を集め、フランス人等との民間レベルでの和解を進めるべく、交流活動をおこなった。1946年から51年にかけて、ドイツ各界の主な指導者3,113人がコーを訪れ、また、フランスからも1,983人もの人々が訪れることで、直前まで戦っていた両者が顔を突き合わせて話し合う機会を設けた。コーはドイツ人とナチの被害者の間での精神的和解を可能にす7城山「紛争解決におけるNGOの役割に関する基礎的調査」17‐24頁。885