ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

るのが和平調停であり、非公式な調停者が紛争解決もしくは特定の課題の調停に乗り出す。この分野のNGOで代表的なものとして、筆頭に挙げられるのがカーター元米大統領による「カーターセンター」である4。カーターは元米大統領という身分的特権を活かして、ハイレベルの紛争解決対話の仲介を進めてきた。カーターセンターの活動のうち調停に関わるものは、INN(International Negotiation Network、国際交渉ネットワーク)の運営である。INNの起源は、国連、米州機構、英連邦の各事務総長らとカーターによる1987年の会議であった。同会議では、それぞれの国際組織が構成国の国内事項への関与を内政干渉として禁止しているが、実際には国内紛争が増大しているために、大部分の紛争が既存の紛争解決システムの管轄外に置かれてしまう「メディエーション・ギャップ(mediationgap)」が着目された。すなわち、INNは設立当初から内戦を対象にしており、紛争解決NGOとしては先駆けであったと言ってよい。INNが具体的に紛争解決を試みた例としては1989年のエチオピアのケースが挙げられる5。エチオピアでは80年代以降、EPLF(エチオピア民族解放戦線)とPDRE(エチオピア人民民主主義共和国政府)との間での内戦が起きていた。1989年、カーターセンターは両者と接触し、和平調停を開始した。第1回交渉は1989年9月7日から19日にかけてアトランタのカーターセンターで行われ、カーターが議長に就いた。また、非公式協議ならではの特徴として、物理的な交渉環境も整えられた。会議室の家具は取り払われ、床には絨毯が敷かれ、ソファやゆったりとした椅子が置かれた。壁にはキャンプデービットにおける中東和平合意の署名を描いた絵が飾られた。そして、これまで両当事者の交渉では感情的なやり取りが続いてしまっていたため、テープで双方の主張を録音し、議事録を取ることで、相手の発言の言葉尻をとらえるようなことを避ける工夫がなされた。第2回交渉はケニアで開かれたが、その後、軍事情勢の推移によってカーターセンターによる調停は途絶えてしまう。しかし、ここで築かれた人的ネットワークは、停戦後の暫定政府下でも活かされることになった。更に、カーターセンターは調停に留まらず、選挙支援を軸にする民主化支援でも積極的な活動を行っている。停戦後の暫定政府において、選挙監視や人権・司法制度に関するワークショップ、ハ8824城山英明「紛争解決におけるNGOの役割」『NIRA政策研究』7巻5号、1994年。5 城山英明「紛争解決におけるNGOの役割に関する基礎的調査――MRA、カーターセンター、インターナショナルアラートの活動を素材として」総合研究開発機構、1995年、57-65頁。