ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
880/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている880ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

みたい。これまでの長い歴史において、政府の職業外交官や政治家による外交は「トラック1」の外交と呼ばれ、国連や地域機構による調停もこれに含まれる。ところが冷戦終結後に勃発している内戦においては、こうした伝統的な外交手法のみでは解決に至ることは難しい。NGOの活動は、そうした伝統的な国家や国際機関による紛争解決行動と対比的に形成されてきた。NGOの活動に対する肯定的な意見としては、グローバリゼーションが進展した現状に即して、政府や国際組織とは違った角度からのアプローチにより、複雑化した国際紛争の糸をほぐすことができるとプラスに評価するものがある。反対に、NGOはアカウンタビリティに欠けているといった批判や、国連やEUなど国際機関からの資金援助が無ければ活動できない組織的不安定さから、中立性に懸念を持つ声も多い。紛争解決のためにNGOが果たせる役割とは何だろうか。これまで日本では紛争解決に関わるNGOの研究はそれほど蓄積されてこなかった。本稿では紛争解決過程においてNGOの活動が重層的に展開されている現状について整理し、また、そうした活動の特徴と課題について考えたい。伝統的な紛争解決現代の紛争解決は対象となる紛争の様態が異なるとは言え、基本原則としては、伝統的な外交交渉と通じる点も多い。かつて佐藤栄作は沖縄返還をめぐって米側と地道な交渉を続け、1969年11月、ニクソン米大統領との会談において沖縄返還に合意した。ホワイト・ハウスでの会談を終えた佐藤首相は「そもそも、戦争の結果発生した領土の状態を、平和裡の話し合いによつて双方が満足する形で変更したということは、世界史上たぐいまれなことであります」と述べた2。沖縄返還をめぐる外交交渉は近年の史料公開によって急速に進展しているが、そこで明らかになったのは、複数の当事者が沖縄返還という目的のために重層的に交渉に携わっていた点である3。沖縄返還交渉では愛知外相や外務省の東郷文彦北米局長が活躍したことが知られているが、佐藤首相の「密使」として若泉敬京都産業大学教授がロストウやキッシンジャーといった二人の国家安全保障問題担当大統領補佐8782「ナショナル・プレス・クラブにおける佐藤栄作内閣総理大臣演説」1969年11月21日3 例えば以下参照。「いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会報告書」2010年3月9日、波多野澄雄『歴史としての日米安保条約――機密外交記録が明かす「密約」の虚実』岩波書店、2010年。