ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

(CTBT)について交渉して以来、実質的な交渉や議論は停滞しているのである8。軍縮会議での議論がこう着状態に陥っている現状においては、議論の場を変更する必要もあろう9。すなわち、軍縮会議の機能を維持し、議論を継続させつつも、次第に他の枠組みにおいて議論されている核廃絶に向けての本格的な足がかりとすることである。これに適した枠組みとしては、日豪政府が主導して発足した国際賢人会議「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」がある。また、軍縮会議が停滞している要因ともなっているCTBTの発効が見込めない現状においては、そもそもNPT体制をとにかく強化することが重要であるとも思われる。ところが、インドやパキスタン、そしてイスラエルが事実上の核保有国として存在していること、北朝鮮やイランによる核兵器の保有計画および核実験問題、そして米国がインドとの間に締結した原子力協定など、NPT体制はまさに換骨奪胎ともいえる現状である。さて、いわゆる国際賢人会議についてであるが、同会議は最終報告書を発表したが、その中に示された行動計画において、長期的には核兵器を廃絶すべき段階として2025年を予定している。ここでは、核抑止の有用性がなくなるような国際的政治条件の構築、核兵器禁止に対する違反が探知できる検証状況の構築、そして核燃料サイクル管理体制の構築が念頭に置かれている。核廃絶については、理想として掲げられることは多くとも、非現実的であると評価されることも多いが、賢人会議の行動計画ならば、具体的な提案がなされており、説得的である。したがって、国連は、この国連の外で進展した枠組みに取り組むことも視野に入れなければならないであろう。見方を変えれば、国連の外の枠組みで始まった議論であるが、だからこそ、「核兵器なき世界」に向けた現実的なロードマップを描くことが可能であったともいえる。今後は、この行動計画に国連が賛同し、規範設定や行動計画の遵守過程について積極的に支援していくことが肝要であろう。それでは以下に、「核兵器なき世界」を実現するに際して国連が果たすべき役割やその可能性を模索する上での提案を政策提言的にいくつか行いたいと思う。8388これまで、軍縮会議は、その前進である軍縮委員会の時代を含めると、核兵器不拡散条約(NPT、1968年)、生物兵器禁止条約(BWC、1972年)、化学兵器禁止条約(CWC、1993年)、包括的核実験禁止条約(CTBT、1996年)等、重要な軍縮関連条約を作成するなど、軍縮に大きな貢献を行ったことも確かである。9 例えば、近年においては、原子力の国際的な管理体制を構築すべく、崩れつつあると評価されているNPT体制に代替するものとして、「グローバル核エネルギー協調(GNEP:Global Nuclear Energy Partnership)」が注目されている。核燃料再処理技術を持つ「パートナーシップ国」と、再処理技術を持たない「燃料ユーザー国」に分け、原子力発電に必要な低濃縮ウランを、前者が責任を持って後者に適切な価格で供給する構想である。こうした新たな平和利用は二酸化炭素排出量を減らす利点もある。