ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回優秀賞うアメを設定することも核不拡散を徹底させる原動力となる。おわりに~核廃絶に向けた国連の課題~以上、核廃絶に向けて実行していくべき方策と今後の国連の役割について論じてきた。こうした取り組みで重要な点は、核廃絶は人類の最終目的ではなく、より安定した繁栄を希求できる地球市民社会を形成するうえでの手段であるということである。そこで、今国際社会に求められることは、核廃絶を望む世論をさらに強め、核に依存しない安全保障が優先されるべき条件であることを全世界の世論にも訴えていかなければならない。そのための重要な要素が、核兵器廃絶の原点ともいうべき人道主義の推進である。人道主義は反核の原点でもあり、冷戦の終結によりその動きは一段と力を強めている。こうした動きを加速化するのもとして、国連国際司法裁判所(ICJ)が1996年に、核兵器の使用または核兵器による威嚇について、戦争に関する国際法に一般的には違反するという勧告意見を出したことは人道主義を重視する国際世論の原動力ともなった。しかし、依然として核保有国は人道主義の台頭を受け入れる姿勢を示していないが、一方で核兵器との共存は正当化できない誤りだという意識を非核保有国及び核保有国の市民に広げていくことができれば、「核本位体制」を内側から空洞化させ軍縮に貢献できるに違いない。問題は、冷戦が終結して核兵器の存在が核戦争につながる危険が低減している中で、世界の世論がどうすれば早急に核軍縮を要求し続けるだけの緊迫感を保持できるかである。そこで注目すべきは、対人地雷全面禁止条約の採択にいたる「オタワ・プロセス」でNGOが果たした役割である。従来のジュネーブ軍縮会議では全会一致を原則とするため大国の賛同がなければ不毛な議論が続くことになりがちだ。これに対してNGOは、カナダ政府を押し立て大国が不参加でも賛同する国だけで禁止条約を発足させる方式を推進し、また、会議でもオブザーバーとして各国代表団と同様に席を占めて発言権をもつという二つの点で伝統的な外交にとらわれない実績をあげた。重要なことは、国連憲章では想定もしなかった形で、市民が世界の意思決定の過程で果たした役割が、予想以上のスピードで増していることであ795