ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

めば、自然破壊や資源をめぐる紛争がぼっ発する可能性が高くなる。このため、脱核分裂時代を推し進めていくには、世界のエネルギー問題を念頭に置きながら戦略を構築しなければ「平和の制度化」は砂上の楼閣になってしまいかねない。具体的に核廃絶を実現するプロセスでは、核分裂を利用しないエネルギー源の開発・普及を地球規模で考え、核廃絶のシナリオとリンクさせていくことが必要だ。また、エネルギー問題は二酸化炭素排出など地球温暖化など環境問題とかかわりをもつ。したがって、地球安全保障の中に「核廃絶」を明確に位置付けて、地球環境、エネルギー需要とのバランスを考慮しながら「三位一体」を前提とした長期戦略を練り上げていく必要がある。Ⅴ.核廃絶に向けた国連の果たす役割~国連機能強化に向けて~以上、核廃絶に向けた三つの段階的アプローチを検討してきた。それでは、核廃絶に向けて国連が果たす役割は何があるだろうか。核兵器の廃絶は、国際社会の関心事であり、地球規模での緊急の課題である。しかし国連は、冷戦後の米ロ二国間の核軍縮交渉の進展と地球規模での核軍縮の加速化が期待され核廃絶に向けた絶好の好機にもかわらず、核廃絶に向けた積極的な関与を示さなかった。その要因としては、1970年代の戦略兵器制限交渉(SALT)からSTART交渉の経過を見れば明らかなように、核軍縮に向けた米ロ二国間交渉の好展開が国連の米ロ依存体質を生み出し、国連の軍縮活動を停滞させてしまったことにある。さらに、湾岸戦争で通常兵器であるハイテク兵器の威力が再評価され、地域紛争の多発化とともに通常兵器の軍縮と拡散に脚光が当たり、国際情勢において通常兵器の軍縮が核軍縮よりも優先される状況が生まれたことも要因として挙げられる。また、1991年末にガリ事務総長が核軍縮問題を国際平和と安全という広い概念に位置付けたため、核軍縮よりも平和維持活動に関心が高まったことも見逃せない。つまり、国連におい注て核軍縮問題の「周辺化」4)が生じてしまったことにある。そこで、核軍縮に取り組む国連軍縮機構の活動を加速させるには、核兵器保有国のみならず、非核兵器国を含めた「多国間協議」を活発化させなければならない。双方の国家グループの意向があいまって、公792注4)広島平和研究所編『21世紀の核軍縮-広島からの発信-』462頁。神谷論文参照。