ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

の疑いをかけられてきたブラジルやアルゼンチンは、長年この条約への加盟を拒んできたが軍事政権から民主化への移行が進み両国とも同条約を批准した。この条約は、1核兵器の開発、実験、製造、取得禁止、2加盟国内領土への核兵器導入禁止、3 IAEAと協定を結び原子力施設への査察を受け入れるなどを定めており、近隣諸国が集まりNPT体制を補完するかたちで、地域の安全保障を高める事例として注目されている。こうした枠組みで、地域内での信頼関係、相互依存関係、国内情勢の透明度が拡大されて核開発疑惑を払拭していくことが可能になっていく。一方、中南米はペルーとエクアドルの紛争にみられるように不安定要因が大きく、「トラテロルコ条約」も足元がぐらつく可能性は否定できず体制維持のための持続的な努力は欠かせない。また、南アフリカが核保有を告白し非核に転換した事例も大きな意味をもつ。白人単独政権固執をやめ、民主的統治へ移行したこと、さらに冷戦が終了して対立構造が緩んだことが、核保有の必要性を低くして核放棄を決断させた。以上のように、それぞれ世界の各地域で「潜在的核保有国」の解消に向けた地域安全保障の枠組みが確立されてくれば核兵器は必要なくなり、「トラテロルコ条約」のように非核地帯構想を打ち出していくことが可能となるであろう。Ⅳ.核の国際管理体制と地球安全保障の模索~第三ステージのアプローチ~幅広い地域安全保障の枠組みが形作られれば、一国による暴走は現実的ではなくなり、核による相互の牽制の意味も次第に低下してくる。既に述べたように地域安全保障の枠組みがしっかりしてくれば、核保有の誘惑にかられる国も少なくなるであろう。そのような段階まで国際情勢が変化し「平和の制度化」を展開することができれば、核保有五ヵ国は、思い切って核軍縮を進めることができる。しかし、核廃絶にはまだ距離があり核物質が存在するかぎり核拡散のリスクは完全にゼロにはならない。なぜなら、核保有国は核を保有する国に備えて少数の弾頭でも核保有を継続する立場をとるからだ。仮にそうだとしても、決して多くの核弾頭を必要とすることはなく「限りなく核廃絶に近い数」に抑制することは可能なはずだ。つまり、上述した地域安全保障も将来には核保有五ヵ国が核弾頭を「限790