ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

対して核戦力で報復するオプションを手にしておきたい思惑があるからだ。核保有国が先制不使用で一致する見通しはたっていないが、核の先制不使用実現には今後も最大のエネルギーを注ぐ必要がある。その理由は、核の先制不使用が「核の効用」を限定することに貢献できるからである。核先制不使用宣言を受け入れた場合、核は保有国にとって核攻撃を受けた場合の報復手段でしかなくなる。その結果、相手が核保有国、非核保有国であろうとも通常戦力、生物・化学兵器による攻撃に対して核兵器で報復できなくなる。つまり、核の役割を「核対核」に限定できることである。また、核の先制不使用が地球規模で実現注されれば消極的安全保障はいらなくなる。1)さらに、冷戦時代の「先制攻撃シンドローム」の悪循環を断ち切ることができる。冷戦時代に米ソは双方とも先制攻撃への恐怖から大量の核弾頭を保有し核軍拡に拍車をかけるという悪循環が維持されてきた。それだけに、核保有五ヵ国が合意して核先制不使用協定を実現すれば、その悪循環を断ち切ることができ核軍縮、そしてNPT体制の安定性と信頼性の向上に大きく貢献できることになる。Ⅲ.地域安全保障の枠組み構築~第二ステージのアプローチ~以上のように核軍縮が実現すれば核保有を続ける国は、国連安全保障理事会の常任理事国である五大国と潜在的核保有国にとどまることになる。そうなれば核保有五ヵ国の核所有の目的は、核保有国と潜在的核保有国に対する抑止である。しかし、そうした抑止の手段は、上述したように爆撃機に搭載された原爆だけとなり核の使用は限定されてくる。核の使用が限定されてくれば、次のステージは核廃絶を想定した展開アプローチである。では、どのようにして核の「効用」を低減して無用化し核廃絶につなげていくのか。第二ステージのアプローチとしては、地域的な安全保障の枠組みを構築していくことで、注核保有国間の信頼醸成を高め核の無用化をねらう方策である。2)そこで重視されるのが、地域機構の役割と機能であり参考になるのが欧州安全保障協力機構(OSCE)である。このOSCEが地域的に国連のミニ組織のような役割と機能を果たしていくようにすること788注1)核の先制不使用体制を構築しても、その約束の遵守を強制する方策がない。そこで核の先行使用の誘因を取り除くこと、たとえば化学兵器禁止条約(CWC)の条約実効性の確保、生物兵器禁止条約(BWC)の査察・検証制度構築が求められている。注2)本来であれば、核廃絶につながる方策としては核兵器の国際管理である。しかし、一挙にそこまで行き着く可能性は高くない。なぜなら、1946年に米国は国連原子力委員会に核の国際管理について「バルーク案」を提出したが、核開発を進めていたソ連の反発にあって廃案となった。その背景には、米ソ間に深い不信感が存在したことにある。そこで、第二のアプローチとして地域的な安全保障の枠組みを確立し、核保有国間の信頼醸成を高め核の無用化を図ることは不可欠である。