ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
789/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている789ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第26回優秀賞核兵器使用の禁止を取り込めば非核保有国にとってNPTの不平等性が修正されて、NPTに入る大きなメリットが生まれる。そうなれば、核保有国にとって新たな利点にひかれてNPT加盟国が増加し、NPT体制を安定化させる効果が生まれる。また、非核保有国に対する核兵器使用の禁止が条約化すれば、核兵器を所持しないメリットが明確になり「非核地帯構想」の拡大につながっていく。このように「消極的安全保障」と「積極的安全保障」がうまく機能すれば、全体的に非核保有国が核保有に走った場合の「効用」を低く抑える作用があるといえる。2核保有五ヵ国間で取り組む枠組み一方、核保有国側からみれば、非核保有国に対する核兵器使用の禁止が条約化されると、非核保有国に対する抑止を後退させることになる。したがって、非核保有国に対する核抑止が後退した後で、核保有国はどのようにして非核保有国に対する抑止を確保するかという問題が浮上してくる。そこで懸念されるのが核兵器への依存を低くすれば、其の分通常兵器の軍拡が進む可能性があることである。通常兵器は、一般的に破壊力も小さく放射線も出さない。したがって、一般市民に対する被害は、核兵器より少なくてすむ可能性は大きい。しかし、非核保有国に対する核兵器使用禁止が条約化され、結果的に核保有国が通常兵器のハイテク化を加速し軍拡に拍車をかけるようでは意味がない。五つの核保有国が、みずから通常兵器のハイテク化を加速し、軍拡に拍車をかけることがないように、核保有国間の武器移転の自粛や規制を行う枠組みを実現させることが重要である。さらに、核保有国間で核の意義と役割を低減していく方策は、核の先制不使用宣言が大きな意味をもつ。偶発的な核戦争でない限り戦闘行為がいきなり核攻撃ではじまることはない。想定されるのは戦闘がエスカレートして相手の非核による軍事行動に対して意図的に核兵器を使用するパターンである。そこで、核保有国がすべて先制不使用宣言をすれば核戦争へのエスカレートの敷居を高くすることができる。冷戦後に先制不使用への期待が高まったが、現実はそうした期待に逆行する流れとなっている。核保有国の中でも米国が、先制不使用に反対する最大の理由は、通常戦力あるいは生物・化学兵器による攻撃に787