ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

(2)国際社会の安全保障環境を安定化させる方策一方、核保有国の軍縮を行うだけでは核の存在価値が低減するわけではない。核の意義や役割を低減するには国際社会において軍縮に向けた安全保障環境の創出を追求し、核使用の危険が伴う事態を防ぐ努力を同時に強化しなければならない。そこで、その方策を多国間で取り組む枠組みと核保有国が取り組む枠組みの二つの側面からみていく。1多国間で取り組む枠組みまず、核兵器の意義と役割を低減するには、核兵器不拡散条約(NPT)を維持・強化する必要がある。今日、NPTは放置し続ければその信頼性と安定性を脅かしかねない構造的問題を抱えている。そこで、特筆すべきは、1)非核保有国に対する核兵器使用の禁止と、2)非核保有国が核による威嚇や攻撃を受けた場合に、核保有国が一定の安全保障措置を講じることを約束する措置である。1)は、「消極的安全保障」政策であり、核保有五ヵ国に「既得権」として核保有を認める一方で、ほかの加盟国に核保有を禁止する不平等性を内包してきた。米国をはじめ核保有五ヵ国は、基本的に「消極的安全保障」を支持する姿勢を示している。しかし、あくまで政府方針であり多国間条約ではないため、政治判断ひとつで変更される可能性を秘めている。したがって、拘束力の弱い宣言だけに核保有国がすべて多国間の枠組みで、非核保有国に対する核兵器使用の禁止を明確に位置付けるべきである。そして、「消極的安全保障」に関する留保条件をなるべく少なくして実効性を高めていくことが必要である。一方、2)は「積極的安全保障」政策であるが、大きな弱点が存在する。それは、たとえば核保有五ヵ国の利害にからむ紛争の場合に、「積極的安全保障」に対して拒否権が発動される可能性があることである。そこで、「積極的安全保障」の決定については、核保有国の拒否権を制限することが検討されるべきである。たとえば、一ヵ国の反対で発動されるのではなく、二ヵ国以上が反対して拒否権が成立するという具合に、特別な意思決定方法を考えてみるのも防止方策の一つになる。以上のように、「消極的安全保障」と「積極的安全保障」が機能すれば、そのメリットは核保有国と非核保有国の双方に存在する。たとえば、NPTの中に非核保有国に対する786